「新型出生前診断」の拡大で“ビジネス化”加速の懸念 儲けに走るクリニックの手口

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 6月20日、日本産科婦人科学会(日産婦)は、妊婦の血液からダウン症など胎児の病気を調べる新型出生前診断(NIPT)について、実施医療機関を拡大すると発表した。“命の選別”という倫理的な観点から慎重な議論を求める声も上がるが、拡大には、ビジネス化する懸念もあるという。

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 2013年から日本ではじまったNIPTは、日本医師会、日本医学会、日産婦、日本産婦人科医会、日本人類遺伝学会の5団体が協力する形ではじまった。今回の拡大を最初に報じた読売新聞(6月19日付)は〈「新型出生前」拡大合意〉との見出しで〈安易な広がりを懸念して反対していた日本小児科学会と日本人類遺伝学会が、妊婦の支援強化を条件に合意したため、拡大にかじを切ることにした〉と書く。

 実は日産婦による「拡大」の試みは、過去に失敗している。昨年3月、日産婦内で拡大をふくむ新指針を決定するも、日本小児科学会と日本人類遺伝学会の2団体が事実上の反対声明を出し、その後、厚生労働省から「各学会と議論すべし」とストップがかかったのだ。

 前回も今回も、日産婦は拡大すべき理由として「認可外施設」の存在を挙げている。日本医学会が認定しない医療機関でのNIPT実施が横行しているため、“認可”の範囲を広げることで、妊婦が認可外施設に行くのを防ぐ狙いがあるという。だが昨年の時点では、日本人類遺伝学会からはこんな指摘もあった。(19年3月29日付「意見表明」より)

〈検査費用の低減を図ることによって、この利潤が低くなると、不適切な非認可施設はおのずと撤退していくものと考えられます〉

 認可施設の料金が高すぎることにも原因はある、自分たちの“企業努力”はどうなのだ、というわけだ。

 先の読売報道によれば、今回は日本人類遺伝学会も〈拡大合意〉したという。そこで事務局に見解を尋ねると、

「こちらとしてもお答えしにくい問題です。何を元に日産婦がそう(合意したと)発表したのか分からず、不確かな部分も多いので……」

 とはっきりしない答えが返ってくる。昨年、厚労省からストップがかかった後も学会間で議論は続き、合意にいたる部分もあったが、実施施設の拡大に合意したわけではないというのが、どうやら実相のようだ。

 となれば昨年同様、今回も拡大が見送りになる可能性もありそうだ。最終的な判断は厚生労働省が下すことになるが、メディアが報じたことで、「拡大」の文言は一人歩き。拙速な結論を出さないよう、有志団体が国や日産婦に提言書を出す事態となっている。

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