「河井克行」逮捕で振り返る…法相の経験者は“お騒がせ”のデパート

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札付きのワルに法相の椅子が用意されるワケ

 在任中ですらこうなのだから、就任以前以後まで含むと枚挙に暇がない。
 就任前に2度の公選法違反に手を染めた金田勝年衆議院議員(第3次安倍第2次改造内閣)を筆頭に、パー券収入を「寄付」と虚偽記載した岩城光英衆議院議員(第3次安倍第1次改造内閣)、やはり公選法違反容疑で逮捕者まで出した上川陽子衆議院議員(第3次安倍第3次改造内閣・第4次安倍内閣)。

 銀座のクラブでの飲食代を「拉致関係の情報取集」と強弁して経理を困らせた末に、馴染みのホステスをたびたび赤坂の議員宿舎に連れ込んだ中井洽氏(羽田内閣)や、警視総監というキャリアをへて法相に就きながらスピード違反の常習だった秦野章氏(第1次中曽根内閣)。問題発言が物議を醸した倉石忠雄氏(第2次大平内閣)に小林武治氏(第3次佐藤内閣)。

 第2次佐藤改造内閣で就任した西郷吉之助氏に至っては、資金繰りに困って東京地裁から歳費差し押さえられた末に、乱発した融通手形をめぐって議員会館に押しかけた債権者が後援者から七千万円脅し取る事態に発展。いやはや、脛に傷のない人物を探す方が困難ですらある。

 では、なぜこうまで札付きのワルにばかり、法相の椅子が用意されるのか。

永田町関係者の言によると、「軽量級で誰でもできるポジションと見なされがち」な法相のポストは、首相、副総理、総務相に続く次位にも関わらず、「河井容疑者のような初入閣や、引退直前の議員に割り当てられる可能性が少なくない」とか。つまり、自然と脇の甘い人が担うことになり、スキャンダルが出てきやすい傾向にあるということだ。
おそらく、上の通りなのだろう。が、筆者なりの持論がなくもない。

 往年の人気時代劇『銭形平次』の主人公、平次、『半七捕物帳』の半七、『人形佐七捕物帳』の佐七……「弱気を援け強気をくじく」勧善懲悪の彼らが「岡っ引」(おかっぴき)という役職にあったことは、時代劇ドラマ華やかなりし時代を知る四十代以上の読者は、周知のことだろう。

 劇中で悪を懲らしめる岡っ引が現在の警察の原型かというと、そういうわけではない。主に町奉行の警察機能の末端を担った協力者にすぎない。奉行所は、軽犯罪に手を染めた罪人を放免する代わりに、余業の一つとして彼らを捜査に協力をさせたことが、その嚆矢である。
 奉行所が知る由もない、あるいは踏み込めない危地への探索に、彼らの経験と人間関係は大いに発揮された。同時に、脛に傷を持つ彼ら自身に「正業に就く」という意識を植えつけさせることで、「更生の場を与える」側面も少なからずあった。

 同様のことは、近代の中学校でも応用されている。筆者が中学生だった頃、学年一の札付きの不良生徒が、担任教師の指名で風紀委員に任じられたことがあった。担任の底意は言うまでもない。
「一番のワルに取り締まらせたら不良の悪事は一網打尽だ。それにこいつの交友関係にも変化が生じるに違いない。校則を遵守させることで更生にもつながる」
 事実この不良生徒は程なくすると優等生と付き合うようになり、人が変わったように勤勉な態度に様変わりしたものである。

 賢明なる読者諸兄はすでにお察しのことだろう。
 過去に不祥事を起こした議員先生が、あまつさえ法相の椅子に座ったのは、彼ら自身の更生のためだったということだ。法を整備し、遵守し、維持するという「ごく当たり前の良識」を培うためだった。すなわち、岡っ引制度の名残と見ていい。
 とはいえ、これが国権の最高機関の話ともなると、そうそう膝ばかり打ってもいられないのだが。

細田昌志
著述業。鳥取県出身。CS放送「サムライTV」でキャスターをつとめたのち、放送作家に転身。 その後、雑誌、WEB等に寄稿。著書に『坂本龍馬はいなかった』(彩図社) 『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』(イースト新書)がある。 現在、メールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」にて「プロモーター・野口修評伝」連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月28日掲載

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