いい年した大人が「おうち」って… 違和感のある「コロナ言葉」たち(中川淳一郎)

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 コロナでは、馴染みのなかった言葉が普及しましたね。「クラスター」「エアロゾル感染」「ロックダウン」など。ネットでは「アマビエ」(疫病を退散させる妖怪)とか。

 そんな中、「Stay homeは、Stay at homeでは?」という意見も。これについては、英語通からの「イギリス英語ではatがつき、アメリカ英語ではつかない。でも、アメリカでも『専業主婦』のことは“Stay at home mom”と言う」との指摘が出て、勉強になった人もいたのでは。

 with coronaについては海外とは用法が違う、との指摘が出ています。日本では「コロナは我々の生活に存在するものと考え、その上で生活様式を考えよう」という意味です。「コロナと共生する社会」です。

 ただ、英語の記事を読むとwith coronaの使われ方で多かったのは“died with coronavirus”(コロナウイルスで死んだ)や“infected with coronavirus”(コロナウイルスに感染した)など「チクショー! コロナの野郎!」的な用法。“Dealing with coronavirus”や“How to cope with coronavirus”のように「コロナに対処する」でもwith coronaは使うものの、日本的な、前向きなニュアンスはない。

 それにしても、よく分からない言葉が多過ぎです。「濃厚接触」は「近距離で一定の時間を共にした」と解釈されるようになりましたが、初めの頃は「ディープキス以上のこと?」と思われていた。このため、日本第一号のコロナ感染者である武漢から再来日した中国人男性が“父親と武漢で濃厚接触していた”と報じられたときは、「どういうこっちゃ?」という声がネットに多数書き込まれました。

 さらに、「夜の街」とか「接待を伴う飲食店」ってなんすか? はっきり「キャバクラやホストクラブ等」と書けよ! 「接待を伴う飲食」って、料亭で「○○部長、××ダムの受注、今回はウチに回してくださいよ。今晩はスッポンでもアワビでも何でも食べてください!」「お主も悪よのぉ」みたいなものを想像するじゃないか。

 こうした違和感のある言葉に対して、私の周囲の文筆家クラスターからは、異議表明が相次ぎました。山田詠美さんは「女性セブン」で2回にわたって小池百合子都知事の「おうちにいましょう」に「喝!」を浴びせました。

〈いい年した大人が自分の家を「おうち」と呼ぶの、私本当に気持ち悪いんです〉

 さらに、どんな男前でも「おうち」と言った途端に魅力半減どころかマイナスに急降下するとも主張します。確かに「オレ、おうちにミニバーがあるんだよ」なんて言われても、萎えそうです。

 しかし、あろうことか女性セブンは、山田さん憤怒の翌週、再び憤怒した号で「おうちで見たい映画」「おうちで食べられるミシュランシェフのレシピ」特集をするではありませんか! 私は同誌のウェブ版を担当しているので、「すいません」と彼女に連絡したら「戦闘意欲をわかせる言葉ざます」と、さらに「おうち」への怒りが増した模様!

 さすが、作家は言葉を大事にしているぜ。私も今度、車と魚を「ブーブー」「おトト」と書いてみようかと思いました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年6月25日号掲載

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