「コロナ禍ドラマ」を振り返り! 林遣都はやっぱりうまい

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 コロナ禍で感じたのは漠然とした恐怖。私が住む繁華街は通常、深夜でも必ず人がいて嬌声が響く。そんな爛れた街から人が消え、音が消えた。映画みたいだと思ったし、とんでもないことが起きていると感じた。

 そろそろドラマも撮影が始まり、口寂しい生活も終わるかな。コロナ禍でも各局が苦肉の策として、リモートドラマ、スマホ覗き見ドラマ、ソーシャルディスタンスドラマなどを作っていたので、ここで総括を。

 まずは、NHK札幌放送局制作、スマホ3台が並ぶ映像で作るドラマ「3ROOMS」(5月31日放送)。3話とも小劇場で観ているような感覚で楽しめた。全体的には若くて拙い印象もあったが、私もちょっと若ぶって推してみる。特に、第3話の「かっこいい隣人」。

 女性ふたり(五十嵐穂(みのり)&廣瀬詩映莉)が両隣に住む男性(リンノスケ&立川佳吾)のスマホをハッキングして、生活を覗き見する話なのだが、3画面という特性を、臨場感ある舞台にうまく転換した作りだった。

 なんつっても五十嵐と廣瀬の丁々発止が小気味よくて、本心ダダ漏れも笑えた。覗き見してる割に図々しいんだ、このふたりが。助詞ひとつで大違い、コメディからのちょいホラーな結末。その割に、後味は悪くない。

 そして、NHK本体制作の「Living」。4話ともSF(少し不思議)なのだが、私の好みは青木崇高(むねたか)主演の第4話(6月6日放送)。

 まず青木が微熱で、家庭内隔離されとる設定がいい。コロナ禍で、元気な人しか出てこない嘘臭さを払拭。

 しかしなぜか自分が出場した高校野球の映像がテレビに流れ、過去を振り返る青木。投手の青木は、強豪校のバッターと本当は勝負をしたかった。が、監督の指示で、5打席連続の敬遠。相手は悔しがり、バットを叩きつけて手首骨折。自爆して選手生命を絶たれたという。勝ったのに罪悪感、従順の後悔……若かりし頃の苦い記憶が蘇る。背負わせるね。忘れたい青春の記憶が胸の中にモヤーッと広がるこの感じ! 「今、それ、掘る?」という内容こそ、コロナ禍に欲していたのかも。私が。

 トリは「世界は3で出来ている」(フジ・11日放送)。コロナ禍、三つ子が集うシンプルな構図。一人で見事に演じ分けたのは林遣都だ。

 長男は冷静で神経質だが、共感力が高すぎて損するタイプ。次男はイキって周囲から嫌われそうだが、意外と世に憚りそう。対照的な兄ふたりの蝶番(ちょうつがい)となる三男。人畜無害で天使の微笑、やることやってる早婚系。これ、まさに3大「林遣都の魅力」。この3タイプを演じさせたら実にうまいもんなぁ。

 いや、贔屓だけではない。長男が語ったコロナ禍の生活と心情にひどく共感したから。誰もいない繁華街の恐怖、YouTubeをじっくり観たし、医療従事者に感謝して寄付したし、クエン酸と重曹使い分けたし、捨てられなかったモノ捨てたし、思考停止状態にもなった!

 緩急あり、禍で傷ついた人の心に寄り添う配慮あり、ふんわり包みこむ作品だった。セリフの例え、八代亜紀と新御三家はちと古くて、林遣都世代じゃないけどな。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年6月25日号掲載

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