「新庄剛志」の“予言”的中…パ・リーグはセ・リーグを凌駕した要因を徹底検証!

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「人気のセ、実力のパ」

 昭和の時代から使われてきた言葉であるが、2010年代の10年間を振り返ると、その傾向に拍車がかかったように見える。1980年代、1990年代、2000年代と10年ごとの日本シリーズの勝敗を見てみると、どの年代もセ・リーグとパ・リーグが5勝ずつで拮抗していたが、しかし、2010年代に入ると勢力図が一変する。この期間、セ・リーグの球団が日本一を勝ち取ったのは、2012年の巨人のみ。トータルの勝敗を比べても、パ・リーグが38勝19敗2引き分けと圧倒しており、第7戦までもつれ込んだケースもわずか2回しかない。今回は、過去10年間でパ・リーグが圧倒的優勢になった理由について、データに基づいて検証したい。

 パ・リーグ優勢の傾向が如実に表れているのがセ・パ交流戦の成績だ。2010年代の交流戦での勝率を上位から並べたところ、以下のような結果となった。

1、ソフトバンク:127勝71敗12分 勝率.641
2、日本ハム:113勝90敗7分 勝率.557
3、オリックス:113勝91敗6分 勝率.554
4、西武:110勝96敗4分 勝率.534
5、巨人:109勝99敗2分 勝率.524
6、ロッテ:105勝96敗9分 勝率.522
7、楽天:103勝104敗3分 勝率.498
8、中日:98勝105敗7分 勝率.483
9、広島:90勝111敗9分 勝率.448
10、阪神:90勝112敗8分 勝率.446
11、ヤクルト:82勝120敗8分 勝率.406
12、DeNA:79勝124敗7分 勝率.389

 上位6球団中5球団がパ・リーグのチームであり、セ・リーグで勝率5割をキープしているのは巨人だけ。パ・リーグ最下位の楽天でさえ、巨人以外のセ・リーグ5球団より上に位置しているのだ。オリックスは1996年以来、日本シリーズ進出から遠ざかっているが、仮に、セ・リーグに所属していたら毎年優勝争いができると感じるのではないだろうか。トータルでは、パ・リーグの671勝548敗41分で、実に123勝も勝ち越している。これを見ても、まだセ・リーグがパ・リーグに負けていないと言える人はいないだろう。

 チームとしての差はもちろんだが、選手の輩出についてもパ・リーグが上回っている。過去10年間にメジャー球団に移籍した選手を見ると、その差は歴然だ。

■セ・リーグ出身:5人
青木宣親(2011年オフ:ヤクルト→ブリュワーズ)
藤川球児(2012年オフ:阪神→カブス)
前田健太(2015年オフ:広島→ドジャース)
筒香嘉智(2019年オフ:DeNA→レイズ)
山口俊(2019年オフ:巨人→ブルージェイズ)

■パ・リーグ出身:14人
西岡剛(2010年オフ:ロッテ→ツインズ)
建山義紀(2010年オフ:日本ハム→レンジャーズ)
川崎宗則(2011年オフ:ソフトバンク→マリナーズ)
ダルビッシュ有(2011年オフ・日本ハム→レンジャーズ)
岩隈久志(2011年オフ:楽天→マリナーズ)
和田毅(2011年オフ:ソフトバンク→オリオールズ)
田中賢介(2012年オフ:日本ハム→ジャイアンツ)
中島裕之(2012年オフ:西武→アスレチックス)
田中将大(2013年オフ:楽天→ヤンキース)
大谷翔平(2017年オフ:日本ハム→エンゼルス)
平野佳寿(2017年オフ:オリックス→ダイヤモンドバックス)
牧田和久(2017年オフ:西武→パドレス)
菊池雄星(2018年オフ:西武→マリナーズ)
秋山翔吾(2019年オフ:西武→レッズ)

※中島はメジャー契約を結んで移籍したが、メジャーの試合には出場できなかった。

 改めてみると、パ・リーグがセ・リーグの約3倍となる人数をメジャーに送り込んでいる。しかも、人数だけでなく、ダルビッシュ、岩隈、田中、大谷、平野などメジャーでも主力となっている選手の多さも目立つ。メジャーでも通用する選手を輩出するという育スカウティング、育成能力でもパ・リーグの球団が上ということがよく分かるだろう。
 
 また、この期間パ・リーグからセ・リーグにもFAで多くの選手が移籍している。その選手たちも一覧にしてみた。

■パ・リーグからセ・リーグへ移籍:16人
藤井彰人(2010年オフ:楽天→阪神)
森本稀哲(2010年オフ:日本ハム→横浜)
小林宏之(2010年オフ:ロッテ→阪神)
杉内俊哉(2011年オフ:ソフトバンク→巨人)
日高剛(2012年オフ:オリックス→阪神)
片岡治大(2013年オフ:西武→巨人)
大引啓次(2014年オフ:日本ハム→ヤクルト)
成瀬善久(2014年オフ:ロッテ→ヤクルト)
脇谷亮太(2015年オフ:西武→巨人)
糸井嘉男(2016年オフ:オリックス→阪神)
森福允彦(2016年オフ:ソフトバンク→巨人)
陽岱鋼(2016年オフ:日本ハム→巨人)
野上亮磨(2017年オフ:西武→巨人)
大野奨太(2017年オフ:日本ハム→中日)
炭谷銀仁朗(2018年オフ:西武→巨人)
西勇輝(2018年オフ:オリックス→阪神)

■セ・リーグからパ・リーグへ移籍:5人
内川聖一(2010年オフ:横浜→ソフトバンク)
サブロー(2011年オフ:巨人→ロッテ)
平野恵一(2012年オフ:阪神→オリックス)
中田賢一(2013年オフ:中日→ソフトバンク)
木村昇吾(2015年オフ:広島→西武)

 こちらはパ・リーグからセ・リーグへの移籍が逆のパターンの3倍以上の数字となった。これだけ多くの選手が移籍して、戦力が分散しても、セ・リーグはパ・リーグに勝てないのだ。逆に言えば、パ・リーグの各球団は主力をメジャー、セ・リーグに引き抜かれても、強さを維持し続けているということもある。

 これだけパ・リーグ優位となった要因は、メジャーへの選手輩出のところで少し触れたが、スカウティングと育成の差に他ならない。ドラフト会議で日本ハムとソフトバンクは、その年の目玉選手から逃げない“ナンバーワン戦略”をとっており、楽天とロッテもそれに続いている。さらに、ソフトバンクは三軍制を確立し、千賀滉大や甲斐拓哉など育成選手から主力へと育て上げた。また、西武は知名度の高くない地方大学から多く選手を獲得する独自ルートを確立して、秋山翔吾、山川穂高、外崎修汰など主力選手に育てている。遅れをとっているように見えたオリックスも、ここへきてソフトバンクに倣い、育成選手を多く指名して、ファーム施設の充実も図っている。セ・リーグでは唯一巨人がソフトバンクと同様に多くの育成選手を抱えているが、FAで他球団の主力を多く獲得することで、逆にその機能を生かすことができていない。他球団では広島が健闘しているものの、パ・リーグに比べるとあらゆる面で遅れをとっていることは明らかだ。

 新庄剛志(元日本ハム)が2004年に日本球界に復帰した時に、「これからはメジャーでもありません。セ・リーグでもありません。パ・リーグです!」と宣言したが、2010年代はまさにそれが現実となったのだ。巨人も含めたセ・リーグ6球団が遅れをとっていることを認め、相当な覚悟でチーム、リーグ全体を変革していかなければ、2020年代もパ・リーグの時代が続く可能性は高いと言えるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月6日掲載

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