一軍で活躍できないのにクビにならない…“生存能力”に長けた4人のベテラン控え選手

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 プロ野球選手の平均在籍期間は約9年、引退時の平均年齢は29歳と言われており、10年以上プレーすることは簡単なことではない。現時点で支配下登録されている選手を見てみると、在籍年数では五十嵐亮太(ヤクルト)が日米通算23年目で最長、年齢では福留孝介(阪神)の43歳が最年長となっており、まさにレジェンドクラスの選手と言えるだろう。

しかし中には一軍での実績が乏しく、レギュラーではないにも関わらず、長く生き残り続けている選手がいることも事実である。そこで今回はそんな“生存能力”に長けた控え選手と、長く現役でプレーできている要因を探ってみたい。

 レギュラーでなくても長く現役を続けているポジションで目立つのが捕手である。基本的に正捕手は一人であり、また経験が求められることから今年で15年目以上という選手は12球団で9人を数える。その中でも一軍の実績が最も乏しいながらも生き残り続けているのが今年17年目を迎える白浜裕太(広島)だ。広陵では西村健太朗(元巨人)とバッテリーを組み、3年春には選抜高校野球で優勝。2003年のドラフト1巡目でプロ入りしている。将来の正捕手として期待されながらも二軍暮らしが続き、一軍初出場を果たしたのは8年目の2011年。昨年までの一軍通算成績は84試合に出場して23安打、1本塁打、7打点、打率.159というものである。この成績でここまで生き残ってきた一つの要因は、地元の広陵出身のドラフト1巡目ということがあるだろう。広島は地元を優先する方針を打ち出しており、県内の最有力校である広陵出身のドラ1選手であるという点は非常に大きいはずだ。

 ただ、それだけでここまで長く生き残れるわけではない。一昨年のキャンプでその年のドラフト1位ルーキーである中村奨成と白浜のブルペンでの様子が比較されていたことがあったが、ミットのぶれない白浜のキャッチングは見事であり、中村との差は歴然だった。このキャッチング技術の高さが、二軍の若手投手育成にも貢献していると点も大きいはずだ。今季も一軍でプレーする機会は少ないかもしれないが、若手の多い広島投手陣を陰で支える存在となるだろう。

 捕手以外の野手では今年15年目を迎える細谷圭(ロッテ)も生存能力の高い選手と言えるだろう。太田市商(現太田市立)時代は強打のショートとして注目を集めて2005年の高校生ドラフト4巡目でロッテに入団。二軍では早くから中心選手になったものの、一軍では結果が残せないシーズンが続いた。そんな細谷が生き残ってきたのはどこでも守れるユーティリティさとチームにとって貴重なパンチ力のある右打者だったという点が大きい。早くから内野は全ポジションを守っていたが、プロ入り11年目の2016年からは外野にも挑戦。この年に自己ベストとなる102安打を放つ活躍を見せている。自分の可能性に蓋をせずに、選手としての幅を広げてきたことが長く現役でプレーできていることに繋がったことは間違いない。

 細谷の同僚である高浜卓也(ロッテ)も一軍通算安打は83本ながら今年で13年目のシーズンを迎える。横浜高校では入学直後からショートのレギュラーとなるなど注目を集め、2007年の高校生ドラフト1巡目で阪神に入団。2011年にFAで移籍した小林宏之の人的補償でロッテに移籍している。阪神時代に一軍出場はなく、ロッテでの自己ベストも2016年の31安打。しかしここまで残ってきたのは二軍でも腐ることなく結果を残してきたことが大きい。2011年からの9年間で打率3割以上(規定打席不足のシーズン含む)を3度マークしており、その安定感は二軍では間違いなく上位である。昨年12月には腰の手術を受けて今年は出遅れることが確実となったが、それでも育成契約を結べたのは球団がまだ力があると判断した証拠である。

 投手は野手と比べて実績が乏しいまま生き残っている選手は少ないが、そんな中で際立っているのが今年でプロ入り11年目を迎える川原弘之(ソフトバンク)だ。福岡大大濠時代から大型サウスポーとして注目を集めて2009年のドラフト2位で入団。二軍では150キロを超えるスピードをマークするなど将来のエース候補として期待されていたが、度重なる故障で結果を残すことができず、7年目の2016年には育成選手となっている。なお2015年から2017年の3年間は二軍戦にも登板していない。しかし2018年に二軍で結果を残すと、昨年3月には4年ぶりに支配下登録され、シーズンでも自己最多となる19試合に登板して防御率2.66と結果を残した。肩、肘の手術を受けてもスピードは落ちることなく、昨年も150キロ以上を計測している。通算成績は勝敗なし、1ホールドのみだが、今年はプロ初勝利にも期待がかかる。

 ヤクルトで二軍監督も務めた八重樫幸雄さんの話では、練習態度も真面目で若手のお手本になれる選手が長く球団に残れるという。ここで挙げた選手たちもそういった側面があった可能性が高い。早くからスターとなる選手がいる一方で、結果が出なくても長くプレーできる選手の存在がチームを支えていることも間違いないだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月4日掲載

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