中村倫也主演「美食探偵 明智五郎」 内容はアレだが日テレの若手育成は素晴らしい

  • ブックマーク

Advertisement

 頭ではわかっている。明智小五郎ではなく明智五郎だと。おどろおどろしい江戸川乱歩の小説ではなく、ポップでガーリーな東村アキコの漫画だと。こってり濃厚で苦みばしった天知茂ではなく、あっさり小動物系の中村倫也なのだと。

 わかっちゃいるけれど、どうしても「明智」と聞くと、土曜ワイド劇場や傑作ワイド劇場を思い出してしまう。子供の頃に強烈なトラウマを植え付けられたから。天知茂の明智小五郎シリーズは、映像が妙に毒々しくて、無駄にエロかった。当時はアダルトなドラマだった。

 比べちゃいけない。そもそもまったく別モノだ。昭和じゃなくて令和だぞ。そんな懐古趣味を滔々と語るようなマクラで始めたら、老害と呼ばれちゃうぞ。そう自分を戒めながら「美食探偵 明智五郎」を観ている。

 日テレの週末ドラマはターゲットを若い人やファミリー層に絞って、着実に成功を収めている。お見事。だから超ウルトラスーパーライトテイストな探偵モノでいいのだ。絵ヅラはおしゃれで可愛くてグルメ満載、キャラクターもポップでキュート、必要以上にコミカル。でも、これでいいのだ。

 金持ちのボンボンで美食家のイケメン探偵(中村)が、食べることが大好きな若い女性ふたり(小芝風花と富田望生(みう))と、刑事ふたり(北村有起哉と佐藤寛太)をこき使ったり頼ったり、飴と鞭方式で事件を解決していく。すべての事件がマグダラのマリア(小池栄子)の巧妙な心理操作と絶妙な差配で起きている。きっかけは、小池の心の奥底の欲望を中村が解放してあげたこと。自殺したように見せかけて、小池はまんまと生きている。それどころか自己肯定感を高めて、完全犯罪を繰り返す殺人鬼と化した。

 その手口は人心掌握&今流行りのリモートワークによる殺人指示。殺人によって心が救われた加害者たち(武田真治や志田未来、今後は仲里依紗も?)は、次々と小池の従順な下僕となる。

 当初、期待していた小池の精神的解放や完全犯罪に至る思考回路は、あまり細かく描かれない。ややこしいことは一切なし。十八番(おはこ)である毒々しさや禍々(まがまが)しさも、思いのほか弱かった。

 中村は女子&刑事のオーバーアクションコント集団を顎で使い、小池は脛と心に傷持つ下僕たちを使い倒す。騎馬戦か。それでいて中村と小池は愛を感じ合うっつう。ええと、なんだ、これ?

 下手な役者はひとりもいない(というか、うまい人しかいない)のに、全体的には説得力と迫力に欠ける。

 いつも思うのだが、日テレのドラマ制作陣は、若手役者をバカっぽく可愛く魅力的に見せることに実に長けている。そして若くない役者を痛々しく晒し者にするが、本人には解放感を与えることにも長けている。たぶん他局より「ドラマにおける若手育成」を徹底。才能のある人をがっちりつかんで離さず、きっちり育てる(元を取る)印象も強い。

 結局このドラマ、好きでも嫌いでもなく「悪くない」。どうでもいいけど、中村は「ケーキ屋ケンちゃん」の宮脇康之に似てない? もうこの時点で私、老害決定。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。