「ゴルフのチカラ」でみんなのために「夢体験オークション」で支援の輪を 風の向こう側(72)

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 今月1日、「夢体験オークション」なるものが、ネット上で公開になった。

 これは、「Yahoo!」が運営するネットオークション「ヤフオク!」に新型コロナウイルス緊急支援企画として「エールオークション」が特設されており、その中の1つとして、私が発起人となり、ようやく実現したチャリティ・オークションなのだが、この日を迎えるまでには、さまざまな経緯があった。

世界トッププロたちのアクション

 今年3月以降、コロナ禍のただ中にある米ゴルフ界の動きを見つめながら、ずっと考えていた。

 最前線で戦っている医療従事者のため、苦しんでいる人々のため、子どもたちのために、日本でも何かできないのだろうか。私たちにも何かできるのではないだろうか。そう考えながら、悶々としていた。

 米ゴルフ界では、世界一の米ツアーやそこに身を置く一流選手たちはもちろんのこと、キャディや関係者、ゴルフ用品メーカー、ゴルフ場、一般ゴルファーやジュニアゴルファーに至るまで、老若男女問わず、大勢の人々が社会貢献のためのアクションを次々に起こした(2020年5月18日『「社会のために」動き始めている米ゴルフ界の「工夫と努力」』)。

 タイガー・ウッズ(44)は自身の「TGR財団」が運営する「TGRラーニングラボ」が提供する科学や工学、数学などのオンライン授業を一般公開することを即座に決め、発表した。

「学校が休校になり、教育が受けられない子どもたちのために、我がTGR財団はオンライン授業を無料提供します」

 元世界ナンバー1、ブルックス・ケプカ(30)は、いち早く10万ドルを地元フロリダ州内の医療従事者支援のために寄付し、その後もウッズらのチャリティ・マッチの際にさらに10万ドルを寄付。そして5月末には、南フロリダの医療関係者のためにトラックにランチを山積みし、愛妻とともに慰問して回った。

 カジノ好きのジョン・デーリー(54)を筆頭に若手選手のコリン・モリカワ(23)やラスベガス在住の名コーチ、ブッチ・ハーモン、それにミッシェル・ウィー(30)やブリタニー・リンシコム(34)といった女子選手たちは、オンライン・ポーカー大会を開き、勝ち取ったお金をゴーストタウン化したラスベガスのカジノ従業員たちへの支援金として寄付した。

「これだ!」

 ノースカロライナ州の名門「パインハースト・リゾート&カントリークラブ」は、営業を停止していたリゾート内のホテルやレストランの従業員たちを救うために何ができるだろうかと考え、「一生に一度の夢のような体験」をオンライン・オークションにかけて、その売り上げを補償に当てる試みを開始した。

「(コース併設の)カロライナ・ホテルに6泊しながらパインハーストの10コースを回る夢体験を2名様で!」「パインハーストNo.4を設計したギル・ハンス氏と一緒にパインハーストNo.4を回る夢体験」等々、さまざまな内容の25種類(ゴルフ関連以外も含む)の趣向を凝らした豪華企画が出品された「夢体験オークション」は大好評を博した。

 実際、

「パインハーストNo.2の3番グリーン脇にある名匠ドナルド・ロスが暮らした家に宿泊し、パインハーストNo.2とNo.4をラウンドする夢体験(4名向け)」

 などは最高値の2万5000ドル(約270万円)で落札され、最終的には「夢体験オークション」すべてで29万4980ドル(約3200万円)が集まり、パインハースト従業員救済ファンドへ寄付されたそうだ。

 私が「これだ!」と思ったのは、そのときだった。

「それぞれができること」を結集

 そのころ、日本の男子ツアー選手、市原弘大(38)から電話をもらったばかりだった。

 昨冬、市原はゴルフを始めようと思った小学生にジュニア用クラブを自費で購入し、寄贈した。そんな彼の地道で小さな活動には大きく優しい心が溢れており、そういう市原の社会貢献への想いを私はコツコツ記事にしていた(2019年12月25日『「市原弘大」の「子どもたちのために」密かな行動と大きな願い』)。

 コロナ禍においても市原は「社会のために何かしたい。何ができるのか」と自問自答を重ね、周囲に呼びかけもしてみたそうだが、「なかなか答えが見つからない」。

 電話口の市原は、少々思いつめた様子だった。

「一緒に夢体験オークションをやろう!」

 パインハーストの例を参考にした夢体験オークションなら、なんとかやれるのではないか。そう思い立った私は、市原に呼びかけ、さらに米ツアーで松山英樹(28)のバッグを6年間担いでいた進藤大典プロキャディにも呼びかけて、私を含めた3人が発起人になった。

 とはいえ、具体的に何からどうやって着手したらいいのか、まったくわからない状態だった。そこで、日ごろから日本のゴルフ業界を経済やビジネスの視点から調査分析している「矢野経済研究所」の三石茂樹氏に声をかけた。

 すると、彼もまたコロナ禍において「何かがしたい。何ができるだろうか」と悶々としていたことがわかり、すっかり意気投合。三石氏に「夢体験オークション」実行委員長をお願いすることになった。

「ゴルフ」というキーワードでつながる選手、キャディ、ジャーナリスト、ビジネス・リサーチ専門家。それぞれ立場や役割、専門分野は異なっているが、「それぞれができること」「それぞれにしかできないこと」を持ち寄り、「ゴルフのチカラ」を結集して「夢体験オークション」を開こうではないか。

 私たちはようやくアクションを起こす出発点に立った。それは4月末のことだった。

何度も壁に

 それから1週間、2週間、時間はどんどん流れていき、焦燥感ばかりが募った。

 私が日頃から記事配信でお世話になっている『Yahoo!ニュース個人』の編集担当者を経て、「ヤフオク!」がコロナ禍で特設している「エールオークション」に辿り着き、その1つとして「夢体験オークション」を実現できる運びになったのは5月半ば。

 関連するさまざまな担当者の方々とのウェブ会議を重ね、準備を進めたが、毎度毎度、壁にぶつかった。

「ゴルフ」でつながった「夢体験オークション実行委員会」だけでは、オークション運営母体としてはあまりにも実態がないということで、三石氏が理事を務める「NPO法人ゴルフアミューズメントパーク」が運営母体を引き受けてくれることになった。

 通常、チャリティ・オークションといえば「モノ(物品)」を出品するものだ。エールオークションにおいても「夢体験」という「コト(サービス、役務)」の出品は前例がなく、出品の仕方や出品内容、諸々の取り決めに関して、毎日のように疑問点、問題点が浮上した。作業はなかなか複雑で、そういう作業とはほぼ無縁だった私にとっては、理解不能と思える難題が次々に飛び出した。

 そうした作業を根気強く1つ1つこなしてくれた三石氏の忍耐力には頭が下がるばかりだった。

次々に出品者が

 同時進行で出品者を募った。発起人の3人は、もちろん出品。

 市原プロは、

「一緒にラウンド+秘密の何かをプレゼントする夢体験」

 進藤キャディは、

「一緒にラウンド+プロ目線のコースマネジメントを伝授する夢体験」。

 そして私は、

「一緒に1日ゴルフジャーナリストを体験+某選手のサイングッズ+和食ディナー」

 を出品することにした。

 ゴルフ雑誌『ワッグル』が、すぐに協力を申し出てくれた。同誌が出品してくれたのは、

「ファッションページにモデルとして登場。プロカメラマンに撮影してもらい、モデル気分を味わえる夢体験」

 というもの。武井秀介編集長の遊び心と「一緒に楽しみながら社会貢献をしよう」という心意気が伝わってきた。

 2019年「PGAティーチングプロアワード大賞」を受賞した上田栄民プロは自身が主宰するゴルフアカデミー所属の川向理絵プロとともにラウンドレッスンを提供してくれた。

 さらに女子プロの馬場由美子(35)、プロテスト挑戦中の青木茉里奈も加わり、男子ではツアー14勝の谷原秀人(41)が追っかけでの出品を申し出てくれている。そして嬉しいことにまだまだ他にも申し出てくれているゴルフ関係者が続いている。

 ゴルフ場にもいくつか声をかけた。みなさん理解を示してくれ、コロナ禍の混乱の中で急な対応にもかかわらず、真っ先に名匠井上誠一設計の歴史ある「湘南カントリークラブ」(神奈川県茅ヶ崎市)が手を挙げてくれた。

「4名のラウンドをプレゼントするのと、所属プロ同伴で3名のラウンドをプレゼントするのと、どちらのほうが一般ゴルファーにとって魅力的ですか?」

 という湘南CCからの質問は、「夢体験を提供する」という初の試みに戸惑いながらも真摯に検討してくれていることが伝わってきて、発起人としては感無量だった。

 最終的には、

「所属プロ同伴で3名のラウンド+特別ランチ」

 を出品してくれた。

「初」の試みに意義

 ひと足遅れで出品してくれた方々の分は、このあと順次、サイト上で公開されることになっている。

 単にゴルフが好きだという一般ゴルファーから、ゴルフビジネスに関わる人々、そしてプロゴルファーまで、「ゴルフ」でつながっている誰もが出品し、入札し、落札し、オークション終了後は、落札者と出品者があらためて交流し、夢体験を実現するというこの企画、果たして、みなさんからどんな反応、反響がいただけるのか、私自身、とても楽しみでワクワクしている。

 落札額で集まったチャリティー金は、コロナ禍の最前線で闘ってくれている医療従事者や、子どもたちを支援している団体に全額寄付することにしている。

 ちょうど5月25日から31日まで、日本の女子ツアー(JLPGA)は同じエールオークションに女子選手たちがサイングッズなどを出品し、渋野日向子(21)のキャップを筆頭に破格で落札され、話題となった。

「夢体験オークション」は、同じように大きな注目を浴びずとも、社会のため人々のために「初」という未開の地に足を踏み入れることに意義があると思っている。

「ゴルフのチカラ」でそこに挑むこと、協力者が次々に得られ、実現したことに、私は胸を張り、そして心から感謝している。

『「ヤフオク!」夢体験オークション』サイトはこちらから】

舩越園子
ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。

Foresight 2020年6月3日掲載

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