「黒川検事長」辞職で「河井夫妻」捜査、次期総長人事はどうなるか

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 東京高検検事長の黒川弘務氏(63)が賭けマージャン問題で辞職して、河井克行前法相(57)と妻の案里参院議員(46)の捜査の行方はどうなるか。そして、稲田伸夫検事総長(63)は自ら身を退くのか否か。

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克行氏の逮捕は必至

 まずは、これまでも触れてきたが、広島地検が担当してきた河井夫妻の捜査について。

 捜査関係者によると、

「東京地検特捜部でも、この広島地検の捜査に人員を持っていかれています。森本宏特捜部長は明言こそしませんが、やりたいことが他に最低5つぐらいあったはず。2017年9月の就任から2年7カ月が経過していて、これは異例中の異例。1991年1月から2年半やった五十嵐紀男さんも超えちゃっていますね」

「森本さんはその間に文科省の次官候補、カルロス・ゴーン、そして秋元司前内閣府副大臣の逮捕を指揮した。このように政官財界にすでに手をつけてきた森本さんは、コロナ禍でストップしている法務検察の人事が動き出せば間違いなく異動。なので、“最後の事件”と意気込んでいた案件があったのは間違いない。それは現職大臣とか、秋元さんよりは少なくとも大物でしょう」

 それに割って入ったのが河井夫妻捜査というわけだが、これは稲田総長の肝いりということもあって、森本特捜部長としてはむげにもできず、というところ。

「コロナ禍はともかく検察庁法改正案のゴタゴタがなければ、国会で逮捕許諾請求を経て克行氏の公選法違反容疑での逮捕は確定的でした」

 と、社会部デスク。妻の案里参院議員が初当選した昨年7月の参院選前に、夫の克行前法相が地元の県議・市議らに700万円のカネを配った一件だ。

「もともと、この捜査自体が『官邸vs稲田検事総長』という構図になっていて、官邸に検察人事をないがしろにされてきた稲田総長が牙をむいたとされているわけです」

 克行氏は安倍晋三首相(自民党総裁)の総裁特別補佐を務めた“側近”であり、わずか1カ月とはいえ、昨年には安倍内閣で法相を務めていた。政権にとって打撃がないはずがない。

「逮捕許諾請求となれば、2003年の坂井隆憲代議士以来の大事になるわけですが、稲田さんはこれに前のめりになっていた。コロナ禍で大変な時に700万円くらいのカネで国会議員を逮捕してるヒマなんてあるのかっていう意見もありましたが(笑)」

 そこに、黒川検事長の辞職というファクターが新たに加わった。

「克行氏の逮捕は揺るがないとして、逮捕許諾請求ができるか否かということはありますね。検察は時の政権以上に風を読む。と言うか空気しか読まない(笑)。国民が不満に思っていることを捜査して、溜飲を下げていただくという流れです。これまでの国策捜査と言われるもののほとんどはそういうことになっています」

 問題なのは、空気がどっち向きなのかということだ。

「黒川さんの振る舞いについて世間は厳しい目を向けている。その黒川さんがいた検察は捜査する資格があるのかという声さえあるし、いやいや、そんな今だからこそ政治とカネの問題に切り込んで失墜した検察への信頼を回復すべきだという捉え方もあるし。案里氏は精神的に不安定な状況であることも踏まえ、万が一に備えて夫妻を共に逮捕するというシナリオもありましたが……。検察としては悩ましい状況になっています」

元サヤのシナリオへ

 その一方で、次期総長人事はどうなるかについて。

「黒川さんの後任に、同期で名古屋高検検事長の林真琴さんが内定しています。検事総長の通常の任期は2年とされていて、稲田さんは今年の夏にその2年を迎える。このタイミングで林さんに引き継ぐ流れでしょう」

 次期総長レースは、かねて黒川氏か林氏の2人に絞られていて、稲田総長の意中の人は林氏とされていた。しかし、官邸の方は黒川氏を推していたため、先に触れた通り、「官邸vs 稲田総長」の図式になっていたのだった。

「昨年の末までに、稲田さんは一旦、官邸に対して辞職する旨を伝えています。しかし、それを翻した。黒川さんの東京高検検事長の定年は誕生日の2月8日で、そのまま退職させて林さんをその後任としたいというのが稲田総長のハラでした」

 官邸の考えはまったく違っていて、

「官邸は、2018年1月、林さんが法務省刑事局長から名古屋高検の検事長に転出した時点で、“黒川・林の総長レースは勝負あった、黒川で決まり”と判断していたんです」

 稲田総長の意向は、「黒川総長」ではなく「林総長」を意味するものだったから、官邸は意趣返しとばかりに、黒川検事長の定年延長を指示したのだった。林氏が東京高検検事長になれば、今年7月30日に63歳の定年を迎えることになる。

「その少し前に林さんの総長就任が閣議で了承されることになるでしょう。結果としては、稲田さんや法務検察が描いていた人事シナリオ通りになるということですね」

週刊新潮WEB取材班

2020年5月25日掲載

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