黒川前検事長の賭け麻雀問題で浮き彫りにされる“事件報道の危うさ”

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記者クラブを見直すべき

 では、まず何をあらためるべきかというと、社会部記者の中ではエリートとされる、司法記者のクラブ制度ではないか。

「司法記者クラブでは、検察にとって都合の悪いことを書いた記者には、情報が取れない仕組みになっていると聞きました。司法記者クラブという制度はなくせないものでしょうか」(木谷弁護士)

 どの記者クラブも相似形であるものの、クラブという仕組みはまず取材対象にとって好都合。加盟する新聞・通信・テレビの報道をある程度、操れるので、世論が作りやすいからだ。

 逆らう記者がいたら、特落ち(その社にだけ情報を流さない)などの手で痛めつけられる。それを笑顔で許すデスクはまずいない。繰り返す記者は、ほぼ間違いなく異動を余儀なくされる。結果、取材対象は目障りな記者を難なく排除できるわけだ。

 記者側にとってもクラブは便利。雑誌などクラブに加盟しないメディアは取材対象から資料をもらうのすら一苦労だが、クラブに加盟していれば資料の手配はもちろん、取材のコーディネートまでしてもらえる。省庁内などに快適なクラブ室も用意してくれる。賃料が発生するものの、ほんの形ばかりだ。前述のニューヨーク・タイムズの記事のとおり、「相互依存性」ではあるまいか。

 2017年、ジャーナリストの伊藤詩織氏(31)にレイプ被害を与えたとして、TBS出身のジャーナリスト・山口敬之氏(54)に準強姦容疑の逮捕状が出ながら、当時の警視庁刑事部長・中村格氏=現警察庁次長=が執行取り消しを指示していた問題が発覚した際、当初はどの新聞も報じなかった。やはり検察と警察の嫌がる記事は書きにくいのか? 伊藤氏の件は海外メディアのほうが早く反応した。

 安倍晋三首相(65)を始め、政治家ベッタリの記者もいるのは御存じのとおり。厚労省など各省庁と昵懇で、まるで応援団のような存在の記者もいる。

 新型コロナ禍に見舞われ、日本のさまざまなウイークポイントが浮き彫りになっている。これを奇貨とし、海外に類を見ない記者クラブ制度も見直すべきではないか?

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月24日掲載

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