【コロナ禍】テツたちの“おうち時間”の楽しみ方 鉄道会社はオンライン素材で知恵比べ

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 緊急事態宣言から約1か月が経過した5月4日、安倍晋三首相はその期限を5月末まで延長すると表明した。

 新型コロナウイルスの蔓延により3月半ばから外出自粛が呼びかけられ、官民一体になってコロナの感染拡大の防止が取り組んできた。それでも、コロナの脅威は弱まることがなく、国民の間には健康面、そして経済面でも不安と危機感が広がる。

 密閉・密集・密接の3密を回避するため、47都道府県知事は不要不急の店舗・施設などに休業を要請。従来なら多くの人出でにぎわう繁華街もシャッター街と化した。

 それに伴い、鉄道の利用者も激減。地域や路線によってもその影響は濃淡あるが、軒並み前年同月比を大幅に下回る。

 特に打撃を受けたのが、長距離移動で使用される新幹線だ。東京駅-新大阪駅間を走る東海道新幹線は、4月1日から15日までの利用者数が前年同期比85%減を記録。惨憺たる有様に、JR東海も手の打ちようがない。

 そもそもJR東海は、増加の一途をたどる新幹線需要に応えるべく2020年春に東海道新幹線のダイヤを改正。同改正で、一時間あたりに運転する東海道新幹線を増便すると決めたばかりだった。コロナ禍によって増便計画は水泡に帰し、減便・運休を実施。それでもなお、東海道新幹線には空席が目立つ。

 JR東海に限らず、鉄道各社の業績は急落した。そのため、少しでも経費を抑えようと減便・運休を実施。鉄道の運転本数を減らせば、それだけ電気代・人件費といった経費を縮減できるからだ。

 しかし、そうした経費縮減も焼け石に水。鉄道会社の経費は、車両・駅・線路などを維持する固定費が多くを占める。列車が走っている・いないは関係なく、固定費は常に負担としてのしかかる。減便・運休で圧縮できる金額は小さい。

 鉄道各社は経営が逼迫する中、コロナ禍でも利用者のつなぎ留めに必死だ。JR九州はインターネット上に“おうちであそぼう!”という特設サイトを開設。自社車両のぬりえ・ペーパークラフト・すごろく・漢字ノート・クイズといったエンタメコンテンツを無料でダウンロードできるようにした。

 JR東日本も“STAY HOME”“おうちですごそう”を呼びかけ、特設サイトを開設。同じく、ぬりえ・ペーパ―クラフト・おりがみといった室内で楽しめるエンタメコンテンツを提供する。

 ぬりえやペーパークラフト、おりがみなどは、完成した作品を披露したいというユーザーが多く、それらの完成品は続々とSNSにアップされている。

 鉄道会社が意図した「みんなに楽しんでもらおう」という狙いは見事に的中したわけだが、それらの写真をあげたツイートとともに、ハッシュタグなども誕生。盛り上がりに花を添える。

 予想以上の盛り上がりを察知した鉄道会社の公式アカウントが、さらに盛り上げようとユーザーに対してリプライやリツイートといった反応を見せることもある。

 窮地に追い込まれながら、鉄道各社はオンライン×鉄道という新たな楽しみ方・接し方を提案した。

 コロナを機に鉄道各社が提供したエンタメ素材は、子供向けが多くを占める。子供向けとはいえ、大人でも楽しめるように工夫されているコンテンツもある。

 運転士と同じ気分を味わえる前面展望の動画、昔の懐かしい車両や駅などの写真などがアップされているのだ。鉄道各社がインターネットにあげた昔懐かしい写真の数々に、古参の鉄道ファンは刺激され、みんな競うように自身が所有する秘蔵写真をSNS上にアップするという新しいムーブメントも生まれている。

 SNS上では、同じ話題をユーザー間で共有できるようにハッシュタグが活用される。そのムーブメントの後押しを受け、これまでスタンダードだった「#鉄道写真」「#鉄道画像」といったハッシュタグだけではなく、「#外出自粛だし過去の鉄道写真上げまくろうぜ」や「#撮り鉄自粛」といったハッシュタグも誕生した。果ては「#自宅で撮り鉄」という変わったハッシュタグも生まれている。

 こうした鉄道会社を加えた鉄道ファンたちのオンライン交流には、「自分の撮った写真を自慢したい」という優越感を含んだ心情も垣間見える。

 しかしそれは、外出自粛で乗り鉄や撮り鉄が制限されても“鉄分補給”を怠らないという、STAY HOMEを乗り切るための鉄道ファンたちのたくましい知恵と工夫が生み出した新現象ともいえる。

 鉄道ファンが新たなムーブメントで楽しみを見出す一方、エンタメ素材を提供する鉄道会社の立場で新現象を眺めれば、収益に結びつかないという不経済な作業ともいえる。むしろ、余計な手間や費用を発生させるので、短期的には損失でもある。

 それでも鉄道各社が家で過ごすためのエンタメ素材をオンライン提供する理由は、アフターコロナを見据えているからだ。

 いつ収束するかも不明なコロナ禍だが、永遠に続くことはない。早期に収束する保証はないが、いつかは再び通勤・通学、観光といった需要が出てくる。コロナ収束後、以前と同レベルまで需要を早急に回復させなければならない。そのための地ならしを、鉄道各社は今からしておく必要がある。

 そうした意図から、鉄道会社は収益に結びつかないエンタメ素材をオンライン提供し、鉄道の魅力を発信しつづける。
 とはいえ、新型コロナウイルス禍がいつ収束するのかは誰にもわからない。緊急事態宣言が延長されたように、長期化も覚悟しなければならない。

 地方鉄道の多くは、経営が厳しい。今を生き残るだけで精一杯で、アフターコロナまで持ちこたえられる体力はない。このままでは、破綻してしまう。
 地方鉄道が破綻すれば、生活に支障をきたす住民も出てくる。地方鉄道の存廃は、沿線自治体・地域住民にとって悩ましい問題でもある。

 危機に瀕した地方鉄道は、生き残りをかけて運賃外収入に活路を見出している。運賃外収入とは、文字通り鉄道を運行すること以外で得られる収入を意味する。

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