「男はつらいよ」ファンのつんく♂が熱弁「自粛延長の今こそ寅さん」な理由 ――「あの人の#おうち時間」(8)

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新型コロナによる「おこもり」は不自由だけれども、自由な時間は山ほどある!ということで、人生に突如として現れた「おうち時間」の過ごし方を紹介してもらうこの企画。第8回は音楽プロデューサーのつんく♂さん。さて、いかがお過ごしですか?

「おうち時間」がテーマということで、誰しも時間ができたと考えがちですが、むしろ自由な時間が減った人もいるような気もします。たとえば普段の週末ならファストフードでワイワイ、夜はレストランに行ったり、気分転換もできるだろうに、自粛ということで結果、家族全員分を朝昼晩と3食作って片付けなくちゃいけないお母さんとか。考えるだけでそれはもう大変ですよね……。

 テレビをつけても暗い話が続き、グルメ番組をこの時期見せられても歯痒いだけ。昼間の再放送のドラマだったらある程度内容がわかっているだけに、番組の途中で子どもが「お腹減った!」となって立ち上がっても、まあなんとかなりますが、家族全員が同じテンションで見てくれるかどうか、そういうのもいろいろあるかとは思います。

 そんな毎日に僕がおすすめするのが、映画「男はつらいよ」シリーズです。

 このシリーズ、本当にいろんな楽しみ方ができるので、老いも若きも、自粛要請で時間ができた人にも、逆に忙しくなってしまった人にも、ぜひ見てみてほしいです。

 映画は全部で50作あるのですが、デジタルリマスタリングの上、配信されています。僕の場合、コロナ自粛が始まったから見始めたわけではなく、それよりもっと以前から見始めていました。第1作から見始めて1年以上かかってようやく40作目まできました。

「男はつらいよ」の第1作が制作されたのは1969年。僕は1968年生まれなのですが、「男はつらいよ」の主人公フーテンの寅さんの甥っ子である「満男」は僕の一つ年下の設定です。東京と大阪での違いはあれど、僕も同じく下町の商店街育ちなので、その背景や時代の空気感みたいなものが「あったあった」「ああ、なんかこれわかる」「そうそう!」という感じで、どんどん出てきます。インベーダーゲームが流行ったり、ピンク・レディーの曲が流れたり……。僕が小学1年生の頃の記憶、小学高学年の頃の記憶。中学生、高校生、大学生の時代に日本を彩ったエピソードがこの映画にそのまま詰まっています。

 ただ、食べず嫌いじゃないけど、東京葛飾柴又が舞台だというだけで、同じ時代を生きてきたにもかかわらず「これは東京もんの話。ああ東京はええなぁ、なんでもかんでも絵になって」と、大阪人の僕は「男はつらいよ」にジェラシーというかライバル心を持ってたので、しっかりと見るのを避けていたように思います。(僕だけの感想なら大阪の人ごめんなさい)。

 で、この年齢になって漸くじっくり見たわけですが、大ヒットシリーズの映画「男はつらいよ」には、日本映画を代表する驚きのスターたちが様々な役で出演しています。アイドルや歌手、ミュージシャンなども出演しています。なんと後に結婚するジュリーこと沢田研二さんと田中裕子さんや、長渕剛さんと志穂美悦子さんが共演されてたり。惚れっぽい寅さんが恋するヒロインや恋敵役もかなり尖った人たちで、「え? この人も出てたんだ」「わ。この時期にこの映画の撮影をやってたんだ」と数々の発見がありました。

 30年に亘って作られていた超長編シリーズならではの特徴として、映画の中で使われている言葉が同じ日本語とはいえどんどん変わっていく。

 たとえば時代とともに演者の台詞から「~かしら」という語尾が少なくなっていきます。同様に売店やホテル、レストランの従業員、警官や鉄道マンの言葉遣いも変わっていきます。

 昭和の40年50年初期あたりまでは従業員サイドもお客に対してタメ口というか、職人気質があるからか、上から目線なんですね。

 それがいつの時代からか、従業員サイドはどんどん客に対してへりくだっていく。そういえば、警官もお店のおっちゃんも僕らが小さい頃は怖くて偉かったですよね。店で買い物していても店のおっちゃんに「こっちがええからこれにしとき!」と、叱られながら買い物したような気もします。

 人だけでなく、宿泊施設のあり方、電車から見える風景や、駅の様子、公衆電話の色や形などもどんどん変化していきます。

 なんだかんだ書きましたが「おこもり生活」において重要なのは、「ながら生活」であって、ご飯作りながら、子どもの世話しながら、家族みんなですごしながら、頭の片隅で仕事のことを考えながら、だと思うんです。「この生活いつまで続くのかなぁ」って思いは、決して頭から消えないですしね。じっくりソファに座って90分100分の映画を集中して見るのは実は意外に難しい。

 作り手からしたら当然一つの物語を最初から最後まで続けて見てもらうことが前提で作っているわけですが。

 ただ、山田洋次監督に失礼を承知で発言させてもらいますと、この作品たちは「ちょっとずつ細切れ」でも「ながら見」であっても、しっかり頭の中で絵が追えるんです。楽しめます。

 しかも、同じ作品を別の日に見たらまた違う発見もある。そしてシリーズのどの作品から見ても面白い。

「男はつらいよ」は、時代を冷静に分析し、日本という国の特徴や民衆の心理をリアルよりちょっと大袈裟に表現することで、共感や親近感、見終えた人がなんとなく感じる優越感のようなものを与えているように思うんです。ほんわか幸せな気分になるんですね。

 僕らのデビュー後、ヒットして紅白に出た頃はまだ新作が作られていたので、もしあの頃の僕が熱烈に「男はつらいよ」に出たい!と願っていれば、出演も夢じゃなかった!?なんて思ってみたり……。そうしたら、いま子どもたちと一緒に見て「お父さんも出演しています。さてどこに出ているでしょうか?」なんてこともあったりね(笑)。さてさて、今日も映画の続きをダウンロードしようかしら……。

つんく♂
1968(昭和43)年大阪府生まれ。1988年バンド「シャ乱Q」を結成。1997年より、モーニング娘。のプロデュースをはじめ、1999年には「LOVEマシーン」が176万枚以上のビッグヒットとなる。音楽以外でも、『LOVE論あなたのいいトコ探します』『だから、生きる。』ほか多数の著作を持つ。2015年、喉頭癌により、喉頭全摘手術を受けたことを公表した。

デイリー新潮編集部

2020年5月7日掲載

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