徹底検証! 選手を育てるのが「うまい球団」「ヘタな球団」はどこだ?

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 あの球団は選手育成が上手い。あの球団はいい選手を獲得しても育てられない。

 そんな会話を耳にしたことがない野球ファンはいないのではないだろうか。ドラフトで獲得した選手が多く活躍している球団は前者のように言われ、FAで獲得した選手や外国人の選手が主力になって生え抜きの選手がレギュラーに少ないような球団は後者のように言われることが多い。

 では、果たして現在の12球団で育成力のある球団はどこなのか。昨シーズンまでの成績をもとに検証してみた。まず育成力についての基準を決める必要があるが、今回は以下に当てはまる戦力となった選手の多さで判断した。

・高校生は順位に限らず対象とする
・大学生選手はドラフト3位以下を対象とする
・高校卒の社会人および独立リーグ出身選手は3位以下を対象とする
・大学を経由した社会人および独立リーグ出身選手は順位に限らず対象から外す
・投手は通算40勝or通算250試合登板orタイトル獲得。セーブとホールドは0.5勝とカウントする
・野手は通算500安打or通算500試合出場orタイトル獲得

 タイトルはベストナイン、ゴールデングラブ賞、新人王も含め、在籍年数が少ない選手は今後クリアの可能性が高いケースも含めた。また、2005年から2007年の3年間は高校生と大学生・社会人の指名を分けた分離ドラフトだったため、それぞれの1巡目指名のみを除いた。この条件で現在チームに在籍している選手を対象として調べ、戦力となった選手が多い順に並べてみたところ、以下のような結果となった。

・ソフトバンク:13人
投手4人:岩嵜翔、武田翔太、千賀滉大、嘉弥真新也
野手9人:高谷裕亮、甲斐拓也、高田知季、今宮健太、明石健志、牧原大成、中村晃、長谷川勇也、上林誠知

・西武:11人
投手4人:高橋光成、松坂大輔、野田昇吾、武隈祥太
野手7人:岡田雅利、森友哉、外崎修汰、中村剛也、栗山巧、金子侑司、熊代聖人

・日本ハム:11人
投手4人:上沢直之、宮西尚生、石川直也、吉川光夫
野手7人:清水優心、鶴岡慎也、杉谷拳士、中田翔、中島卓也、西川遥輝、近藤健介

・広島:11人
投手3人:今村猛、中崎翔太、中田廉
野手8人:会沢翼、石原慶幸、小窪哲也、安部友裕、堂林翔太、西川龍馬、鈴木誠也、松山竜平

・阪神:9人
投手4人:藤浪晋太郎、藤川球児、秋山拓巳、岩崎優
野手5人:梅野隆太郎、原口文仁、北條史也、上本博紀、俊介

・ヤクルト:9人
投手1人:五十嵐亮太
野手8人:中村悠平、山田哲人、川端慎吾、荒木貴裕、村上宗隆、青木宣親、雄平、上田剛史

・楽天:8人
投手3人:松井裕樹、青山浩二、辛島航
野手5人:岡島豪郎、茂木栄五郎、銀次、田中和基、島内宏明

・ロッテ:8人
投手5人:二木康太、唐川侑己、内竜也、西野勇士、益田直也
野手3人:田村龍弘、角中勝也、加藤翔平

・DeNA:8人
投手2人:砂田毅樹、国吉佑樹
野手6人:嶺井博希、柴田竜拓、石川雄洋、桑原将志、梶谷隆幸、乙坂智

・巨人:7人
投手4人:田口麗斗、中川皓太、高木京介、田原誠次
野手3人:坂本勇人、岡本和真、亀井善行

・中日:6人
投手3人:田島慎二、岡田俊哉
野手4人:高橋周平、福田永将、堂上直倫、平田良介

・オリックス:5人
投手1人:山本由伸
野手4人:若月健矢、大城滉二、後藤駿太、T-岡田

 トップは日本シリーズ3連覇中のソフトバンクとなったが、これは予想通りの結果と言えるだろう。13人のうち千賀、甲斐、牧原の三人は同じ2010年の育成ドラフトで指名された選手である。高校時代は決して評価が高くなくても、充実した施設で選手を鍛え、また三軍制で実戦を確保している結果がここによく表れている。育成選手という制度がなければ、これだけソフトバンクの強さが際立つこともなかっただろう。

 しかし、その一方で気になる点もある。上位で指名した高校生投手が岩嵜と武田以外、あまり戦力になっていないのだ。松本裕樹、高橋純平は少しブレイクの兆しは見えているが、それでもまだ成功するかは微妙なラインである。また故障者が多いのも気になる点だ。逆に言えば、そのあたりが改善されてくれば、さらにソフトバンクの時代は続くことになるだろう。

 2位では西武、日本ハム、広島の3球団が並んだ。いずれも過去5年以内にリーグ優勝を果たしており、やはり選手がしっかり育っている印象を受ける。日本ハムはダルビッシュ有(カブス)、大谷翔平(エンゼルス)、広島は前田健太(ツインズ)、丸佳浩(巨人)という大看板が抜けながらのこの順位はさすがという他ない。

 西武は松坂、中村、栗山といったかなり過去に入団した選手が含まれているため、この2球団と比べると見劣りするが、森、外崎といった代表クラスの選手が名を連ねているのは立派である。また、大学卒の2位指名だったため今回の対象からは除外したが、主砲の山川穂高も大学時代はそこまで評価の高い選手ではなく、野手の育成については12球団でも上位と言えるだろう。この3球団は伝統的にFAで主力選手が流出することが多く、それに備えて生え抜きを抜擢せざるを得ない状況にあったという点も上位に入った要因と言えるだろう。

 生え抜きを育てられないと嘆くファンが多い印象の阪神は5位タイで、意外に上位に入る結果となった。しかし、顔ぶれを見ると、高校卒で大看板となったのは大ベテランの藤川だけというのが現状である。やはり痛いのが藤浪の停滞だ。高校卒1年目に二桁勝利をマークした投手は平成以降では松坂と田中将大(ヤンキース)と藤浪しかおらず、その大器を育て切れていないマイナスのイメージはなかなか払拭できないだろう。

 阪神と同じ9人で5位に入ったヤクルトはまさに今のチーム状況を表すような顔ぶれとなった。野手は青木、山田、村上と各世代にスター選手が揃い、中村、川端、雄平の高校卒3人もレギュラークラスである。しかし、その一方で投手は散々な状況。五十嵐亮太は20年以上前の1997年のドラフト2位であり、それ以降の高校卒投手はことごとく大成せずに終わった。故障者が多いのも球団の悪い伝統となっている。

 FAで戦力を補強することが多い巨人はやはり低い順位となった。投手は4人の名前が挙がっているが、いずれも完全な主力と呼ぶには物足りない顔ぶれとなっている。菅野智之がもし入団していなかったらと考えると、背筋が寒くなるファンも多いだろう。しかし、その一方で野手は3人とも完全な中心選手となっている。特に坂本と岡本が期待通りに主力に成長したことは巨人の歴史にとっても大きな出来事だったと言えるだろう。

 最下位となったのはオリックス。高校卒でドラフト4位入団の山本がすい星のように現れたが、投手はそれ以外だれも該当しなかった。野手のT-岡田と後藤も入団当初の期待の大きさからすると、物足りなさを感じているファンも多いはずだ。そもそも伝統的に社会人出身の選手でチーム作りをしてきただけに、今回の基準に該当する選手は少なくなるのも当然である。しかし、過去2年間のドラフトでは育成枠も含めて高校生を積極的に指名しており、ファームの施設も充実を図っている。これから数年後、どのように選手の顔ぶれが変わっていくかには注目したい球団である。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月7日掲載

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