コロナ禍で「名作ドラマ」が放送 わざわざ「特別編」や「傑作選」にするテレビ局の事情

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 コロナ禍の影響で各テレビ局ともドラマの収録が出来なくなり、旧作を再編集した「特別編」が放送されている。「下町ロケット 特別総集編」(TBS)、「春子の物語 ハケンの品格2007特別編」(日本テレビ)、「BG~身辺警護人~傑作選」(テレビ朝日)――。なぜ、旧作をそのまま再放送せず、わざわざ特別編と銘打って放送するのか? 背景には各局の皮算用があった。

 結論から書くと、再放送を流したってテレビ局は儲からない。再編集を施し、特別編という名の新たな番組に仕立てないと、高いスポンサー料が取れない。制作費ゼロの再放送に高い金を払うスポンサーはいないからだ。

 SNSには「1970年から80年代の名作ドラマを流して」という声や「もう、しばらくドラマは再放送ばかりでも構わない」という意見があるが、各局としては、そうはいかないのである。

「プライムタイムの1時間ドラマなら、スポンサー料が4000万円ほど入る。そこから制作費などを抜き、最終的に局に入るのは約20%。これが再放送だと、ほんの僅か。儲けはほとんどないに等しい」(民放幹部)

 再放送は儲からない。コロナ禍までは再放送も特別編もやらなかった日本テレビと、再放送を多用してきたテレビ朝日の放送収入の差を見ると分かりやすい。

 日テレとテレ朝が世帯視聴率でほぼ肩を並べようが、放送収入には大きな違いがある。日テレの2562億7000万円に対し、テレ朝は1879億3900万円(ともに2018年度決算)。なぜかというと、その理由の一つはテレ朝が平日の午後2時台、同3時台で「相棒」などの刑事ドラマを再放送しているためだ。日テレのほうがスポンサーの喜ぶ若い視聴者が多い上、テレ朝には実入りが少ない再放送が多いので、放送収入に差が付くのだ。

 なので、テレ朝の視聴率の取り方は「他局では禁じ手」(TBSプロデューサー)とすら言われてきた。

 片や特別編なら、ひとまず再放送ではないから、ある程度のスポンサー料が取れる。

「それでも利益は通常の約4000万円のうちの約20%とはいかない。15%程度」(前出・民放幹部)

 では、再放送と特別編が放送される際の出演者のギャラ(2次使用料)の差はどうかというと、これは基本的に同じ。出演者には著作隣接権という権利に基づいてギャラが出る。

 とはいえ、2次使用料のギャラは僅かで、せいぜい平均数万円程度。もっとも、このまま再放送と特別編が増えたままの状態が続くとなると、日本俳優連合や日本音楽事業者協会など芸能人の権利団体が、2次使用料のアップを要求することが予想される。新作に出演できなくては困るし、そもそも「安すぎる」と不評を買っていたからだ。

 SNS上では「今こそSMAPの番組の再放送を」という意見が多いが、その可否を決定するのは著作隣接権を持つ旧SMAPメンバーの5人自身だ。各局の判断だけでは決められないし、かつて全員が所属していたジャニーズ事務所が権利を持つわけでもない。5人の判断に注目したい。

 ちなみに演出家や脚本家らにも2次使用料は出る。誰かがNOと言えば、再放送も特別編もやれないが、放送時にトラブルが発生したドラマでない限り大丈夫だろう。

 各局にはドラマが撮れないことより大きな問題がある。CM減だ。番組を提供するスポンサーによる「タイムCM」こそ現時点では以前のままだが、番組と番組の合間などに流れる「スポットCM」が減っている。各局の放送収入は「タイムCM」と「スポットCM」が約半分ずつなので、片肺飛行になるのは痛い。

「収録できないドラマの制作現場の苦労ばかり目立ちますが、今一番大変なのはスポンサーを相手にする営業。ドラマの特別編の放送をスポンサーに納得してもらわなくてはならないし、スポットCMから降りてしまったスポンサーの代わりを見つけなくてはなりませんから」(前出・民放幹部)

 例えば、コロナ禍がなければゴールデンウィークに合わせて大量のスポットCMを流していたはずの東京ディズニーランドは緊急事態宣言下で休園中。当たり前だが、1本もCMを流していない。観光・レジャー業全般がそうだ。移動を呼び掛けられなくなった航空業も同じ。

 ACジャパンへのCM差し替えも増えている。スポンサーの都合により、流すはずのCMを取りやめると、代わりに放送されるのがACのCM。よくあるのはスポンサーが不祥事を起こした時だが、今回は違う。2011年の東日本大震災後にもスポンサーの自粛でACのCMに切り替えられたものの、それとも違う。客を呼ぶことが出来ない業種すべてだ。

 買ってあったCM枠をACジャパンのものに差し替えたスポンサーが、これから完全に撤退すると、各局とも新たなスポンサーを見つけるか、番組宣伝を流すしかなくなってしまう。苦境に立たされる。

 まだ深刻な問題がある。各局が行うイベントが軒並み中止になっているのだ。近年、イベントは各局の有力な収益源になっているので、相次ぐ中止は痛手にほかならない。

 日テレの場合、2018年度の放送収入は前述の通り2562億7000万円だが、イベント収入も72億8500万円ある。ところが、これがコロナ禍で軒並み出来なくなっている。

「ボストン美術館展 芸術×力」(4月16~7月5日)中止、「FUJI&SUN2020」(5月16~17日)中止、「それいけ!アンパンマン ミュージカル『勇気の花に歌おう♪』」(4月18~5月18日の関東公演中止)…。他局も同じ状況だ。

「各局とも大損害。その上、ほとんどのイベントは共催や協賛などの形でスポンサーと組んでいるから、損害の負担割合をどうするかの話し合いをしている。これが簡単な作業ではない」(前出・民放幹部)

 過去、各局の最大の危機は第1次オイルショック(1973年)と第2次オイルショック(1979年)の時とされた。制作費は削減され、新卒採用者も減らされた。だが、コロナ禍はそれを上まわる深刻な事態になってしまいそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月2日掲載

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