似鳥昭雄(ニトリホールディングス会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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壮大なる30年計画

佐藤 こうした事業展開の原点には、若き日のアメリカ研修旅行があるそうですね。

似鳥 1972年、27歳でした。当時は2号店の近くに大型の家具店が出店して売り上げが落ち、金融機関からは融資をストップされていました。もう鬱状態で死ぬことばかり考えていたところへ、家具業界のコンサルタントから、アメリカの家具店視察セミナーのお誘いを受けたんです。

佐藤 まだアメリカと日本の生活水準の差が歴然としていた時代ですね。

似鳥 ええ。行ってみると、アメリカの暮らしがあまりに豊かなことに驚きました。しかも家具店には、洋服ダンスや整理ダンスなど箱物がなく、ソファやベッドの脚物ばかりでした。あちらではクローゼットは作り付けなんですね。また家具の色やデザインがしっかりコーディネートされて、とても美しかった。それなのに価格は日本の2分の1です。

佐藤 アメリカは売り場が広く、演出もされていますよね。

似鳥 私たちの店舗は200坪くらいでしたが、アメリカはその10倍、2千坪くらいはありましたね。日本は50年遅れていると思いました。だからこのアメリカの豊かさを日本でも実現させたい、日本人の暮らしを豊かにしようという気持ちが沸々と湧いてきた。

佐藤 いまはどの家もほぼ洋風の生活になってきましたが、どの程度追いつきましたか。

似鳥 40年分くらいは追いついたのかな。まだ10年は遅れていますね。あの時、50年遅れているから、それに追いつくために、60年間分の計画を立てたんです。実際には2回に分け、30年計画を2度やることにしました。

佐藤 それでも遠大な計画ですね。

似鳥 アメリカの家具店は、店舗数も桁違いに多い。だから私は30年後の目標を、店舗数は100店、売り上げは1千億円にしました。あまりにも現実離れした目標でしたから、社長がおかしくなったと社員が辞めていきましたよ(笑)。

佐藤 当時の売り上げは?

似鳥 5億円もありません。そこからの出発ですから、まずは前半の30年で何ができるかと考えた。最初の10年は「店作り」です。その次は「人作り」、そして最後の10年は「商品作り」をやりました。

佐藤 それらを成し遂げるには何が必要でしたか。

似鳥 ニトリにはいろいろな標語があるのですが、基本は「ロマン」「ビジョン」「意欲」「執念」「好奇心」です。アメリカで決意した「日本の暮らしを豊かにする」という志がロマン、そこから立てた具体的な30年計画がビジョンです。するとそこに向けて当然、やる気、意欲が出てきますよね。それが何回失敗しても諦めないという執念につながり、何とか成功させるために、見たり聞いたり学んだりする好奇心にも広がる。

佐藤 体系づけられていますね。

似鳥 さらにその次には「チェンジ」「チャレンジ」「コンペティション」がある。文字通り、チェンジはどんどん変化する。年に52週、毎週変化しようということです。チャレンジはできそうもないことでもやってみる。そしてコンペティションは世界でも国内でも社内でも競争です。みんなで和気藹々では、外で勝てない。

佐藤 とても共感します。というのも、最近の学生を見ていると、競争を避け、動機や過程を重視する風潮が強いんですね。跳び箱を跳べなくても、努力したことを評価するということで、できないことも「個性」になっている。これでは世界に太刀打ちできない。

似鳥 そんな傾向がありますか。

佐藤 あります。そこで私が関心を持ったのは、人事評価が6段階だということです。5段階だとみんな3ばかりになりますよね。6段階にすると3か4では大きな違いが出る。

似鳥 前に本を書いた時点では6段階だったのですが、いまは8段階評価にしました。優秀な人はポンと引き上げたほうがいい。

佐藤 そうすると、はっきり差がつくことになりますね。そのとき「ヤキモチ」の管理はどうしますか? あいつがなんで8なんだ、という人が出てくるでしょう。

似鳥 それは考えたことがないな。周りが当然と思う評価ですからね。

佐藤 霞が関の官僚は、自分こそが優秀だと勘違いしているから、どうしても「ヤキモチ」を焼く人が出てきます。しかもそれが権力闘争に絡んだりするから、ややこしい。

似鳥 ニトリの執行役員以上の7割は、中途入社とかスカウトですから、社風ということもあるかもしれません。

佐藤 なるほど。そういえば一昨年、元日産自動車副社長がグループ副社長になられていますね。

似鳥 ええ。やっぱり急成長するには優秀な会社のデキる人を引き抜くしかないんですよ。定期採用者だけでは間に合わない。

佐藤 それはそうですね。

似鳥 採用して10年で半人前、一人前のスペシャリストになるには20年かかります。そういう人が100人くらい出るまでは、もうスカウト、スカウトですよ。

佐藤 どんどん違う世界から人が来ると、組織は保守化しませんしね。

似鳥 新しい発想を持ち、改善・改革を推し進める人がスカウトで入ってくると、その人に引っ張られ、競争しなくてはいけなくなります。だからとても刺激になる。

佐藤 しかもニトリの海外拠点がある中国やベトナムに行ったら、上昇志向の人はいくらでもいますよね。

似鳥 います。現地の工場でも高卒で採用して育成し、能力主義で実力があれば幹部にしていますから、士気は非常に高いですよ。

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