【コロナ禍】外出制限でDV急増のフランス 「マスク19」の合言葉で薬局が果たす重要な役割

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外出制限後に始まった新たな対策

 急増中のDVに新たな対策も取られています。「マスク19」という合言葉を使い、薬局から通報するシステムが整備されました。被害者本人が薬局に行き店員に伝える必要がありますが、外出制限により常にパートナーが近くにいて、家から電話ができない状況でも、助けを求める手段が増えました。日本のコンビニエンスストアと同じように、フランスの薬局は大体どこの地域でも近くにあります。

 大型スーパーやショッピングセンターを受付場所とした被害女性の支援も始まっています。フランス北部のアラスでは、大型スーパーのオーシャンに警察の窓口と、小型スーパーには軍警察の窓口を設けました。フランスでは日本のように交番が街中になく、DV被害者が助けを求めることが容易でないために誰でもアクセスできるスーパーに開設されました。DV被害者の支援のためにタクシー運転手とも提携しています。
自治体によってスタイルは異なりますが、ソーシャルワーカーに相談してアドバイスを受けたり、避難場所を提供してもらえたりなど、DV被害者がより容易にアクセスできるよう考案されています。

 マルレーヌ・シアッパ女男平等・差別対策担当副大臣は、政府がDV被害女性のためにホテル2万泊分の部屋と、DV被害女性を支援する協会に100万ユーロ(約1億1700万円)確保したこと、臨時の被害者サポート場所をパリと近隣のショッピングセンターに4か所設置し、順次増やしていく計画も発表しています。

 それとは別に、民間で暴力被害者の女性を支援する財団「フォンダシオンファム」は約200万ユーロ(約2億3400万円)を調達したと報告しています。資金は、被害女性が避難する一時的宿泊施設や食糧の支援に使用されます。また提携企業等の支援により4万泊分のホテルの部屋を確保しています。

 DV防止策として3月24日、フランス北部にあるアイネ県はDV防止策として夕方以降のアルコールの販売の禁止を発表しています。4月17日にはブルターニュにあるモルビアン県も強いアルコールの持ち帰り販売を禁止しました。DV加害者はアルコールを飲んでいるケースが多かったためです。

 実際、こうした対策は効果を上げています。DV被害通報「3919」は、1日350-400件の通報を受けています。薬局経由で通報できるシステムにより4月11日には18歳の女性が8か月の娘と駆け込み、元夫が逮捕されるなど、加害男性が拘留されているケースが複数報告されています。4月16日時点で、DV被害女性の受付窓口を設けたショッピングセンターや大型スーパーでは60人以上の女性が保護されています。

 新しい取り組み、システムが奏功しているのは間違いないようです。

フランスのDV問題の今後

 政府は外出制限を5月11日まで延長すると発表しています。外出制限が長引けばDVの件数も増加していくことは避けられません。

 それでもDV問題はコロナウイルス危機により悪化したことで、かえって社会問題としてより強く顕在化してきました。そのことにより対策を求める声も高まり、政府も民間も一層の支援に乗り出しています。

 社会全体が力を入れてDV防止、被害者の支援に取り組んでおり、助けを求める手段が増えて認知度も高まっているのは明らかです。

 コロナ危機による社会の変化のひとつとして、DV被害の防止策がより充実し、これらの取り組み、支援が危機の収束後にも継続されてDV問題が減少していくことを願っています。

ヴェイサードゆうこ
翻訳家・ジャーナリスト。青山学院大学国際政治経済学部卒。ITベンチャーから転身し、女性向けweb媒体のライター、飲食専門誌の編集記者として執筆。2016年よりフランスに移住し、現在はYouTubeで現地情報を発信中(http://bit.ly/2uQlngQ)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月27日掲載

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