緊急事態宣言を実効あるものにする方法 理解すべき日本人の“性格”とは

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 政府は4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき、東京を始めとする7都道府県を対象に5月6日までを期限とする緊急事態宣言を発令した。

 安倍首相は宣言を出す理由について「人と人との接触を極力減らし、医療提供体制を整えるためだ」と強調した。緊急事態宣言の発令により医療提供体制の整備が進むことは間違いないが、感染抑制のための最大の課題である「どこまで人の動きを抑えられる」かについては未知数である。

 専門家の間でも「強制力はないが心理的な効果は大きい」とする意見がある一方で、「罰則がないことなどを理由に普段の行動を変えない人が出てくる可能性があり、何のために宣言を出したかわからなくなってしまう」と指摘する向きがあるなど様々である。

 今回の緊急事態宣言は世界各国で実施されているロックダウン(都市封鎖)ではないが、日本国憲法下で初めて実施される最大規模の国民の私権に対する制限措置である。

 戦前との比較を単純に行うことは適切ではないかもしれないが、戦前の日本では3度にわたり首都圏に戒厳令(勅令による行政戒厳)が敷かれている。(1)1905年9~11月(日比谷焼討事件が発動理由)(2)1923年9~11月(関東大震災)(3)1936年2~7月(二・二六事件)である。

 ここで気づくのは1918年から20年にかけて日本でも蔓延したスペイン風邪を発動理由とした戒厳令が出されていないことである。今般の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)はスペイン風邪と比較されることが多くなったが、日本では当時の人口の1%に当たる約50万人が死亡したと言われている。内務省の「お達し」により日本人がマスクをする習慣ができたことは知られるようになったが、当時の日本人にとってスペイン風邪は現在の私たちが思うほど脅威ではなかった。

 新型コロナウイルスの影響で春の選抜高校野球大会が中止を余儀なくされたが、スペイン風邪が流行しだした1918年夏の高校野球大会も中止となった。だがその理由はスペイン風邪ではなく、「米騒動(米の価格急騰に端を発した全国規模の暴動事件)」だった。

 日本の病理史に詳しい立川昭二氏は「スペイン風邪が蔓延した時期は、その前に日清・日露戦争があり、その直後に関東大震災などが起こったことから、日本の歴史にスペイン風邪の記憶が刻みこまれることはなかった」とした上で、「日本人は地震、台風、洪水などといった災害には神経質だが、疫病に対しては不感症である」と指摘している。

 世界に目を転ずれば、欧州では「14世紀のペスト(黒死病)による人口激減」、中国では「疫病の大発生による明・清王朝の崩壊」という強烈な歴史の記憶があることから、一般の国民は新型コロナウイルスの感染拡大抑制のためのロックダウンに順応しているとされている。だがこのような感覚を有しない日本人は仮にロックダウンが実施されたとしても遵守するかどうかはわからないのではないだろうか。

 それではどうすればよいのだろうか。

 筆者は4月5日付コラムで「クラスター潰し」という日本独自の戦略がこれまでのところうまく機能していると述べたが、緊急事態宣言が発令された後もこの戦略を変更すべきではないと考えている。むしろ「クラスター潰し」のために緊急事態宣言により実施される都道府県の施策を有効活用すべきであるとの考えである。

 政府の新型コロナウイルス対策本部に設置されたクラスター対策班を率いる押谷仁東北大学教授は「日本に住むすべての人がこの問題を真摯に考え、それぞれの行動を見直してもらいたい」と行動変容を強く求めているが、現在の日本人にこれを求めるためには金銭的なインセンティブが有効ではないだろうか。

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