「セックスで新型肺炎はうつらない」 研究レポートの意味は…

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 新型肺炎の流行りはじめの頃、「濃厚接触」と聞いてあらぬ妄想をしてしまった人は少なくあるまい。実際には2メートル以内で一定時間、会話を交わしたりすることを指しているのだが、こちらは、より親密な「接触」の研究である。

〈SARS-CoV-2に感染した女性患者の臨床的特徴と性的感染の可能性〉

 こんな英文の研究レポートが論文サイト「medRxiv」に載ったのは2月26日のこと。「SARS-CoV-2」とは新型コロナウイルスの意味である。

 医学部の講師が解説する。

「これはプレプリントと言って、査読(専門家による検証)を受ける前のレポートです。玉石混交ではありますが、医学的な知見を早く共有するために、正式な論文になる前でも投稿できるのです」

 それによると、調査対象は中国の「同済病院」(武漢市)において、新型ウイルスに感染しているとされた35人の女性。彼女たちの性的パートナー(夫や恋人)の約43%も感染しており、まさにウイルス禍のど真ん中にいる人たちである。

 ところが検査結果は意外なものだった。

「ウイルスは粘膜から感染するケースが多いのですが、彼女らの女性器(膣や子宮頸部)から組織の一部をとって調べてみたところ、全員がPCR検査で陰性だったのです。それを示すように、潜伏期間中にパートナーとセックスしていた2人のうち、相手の1人は感染していたものの、もう1人は感染していませんでした」(同)

 その理由について、

「おそらく女性器の中には感染に必要な『ACE2受容体』がないため、ウイルスが増殖していない。セックスで感染する証拠は見つからなかったと結論付けているのです」(同)

 医学博士で新渡戸文化短大名誉学長の中原英臣氏が補足する。

「ウイルスは、相手の体内の受容体を介して感染することが知られています。たとえばB型肝炎ウイルスは口からは感染しない。口腔内の粘膜に受容体がないからです」

 が、「セックスだけ」ではうつらないのはいいとして、レポートの出来については首をひねるのだ。

「普通、セックスしたらキスぐらいします。そうしたらウイルスに感染しますよね。何の役に立つ研究なのでしょうか」(同)

 そんなお叱りを覚悟していたのか、レポートにはこんなオチがついている。

〈膣以外のセックスや、セックス中の親密接触による感染リスクは無視するべきではありません〉

週刊新潮 2020年3月19日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。