【名古屋闇サイト殺人事件】「事件について何も思いません」犯人から届いた非情な手紙

国内 社会 2020年3月5日掲載

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利恵さんが遺した「2960」の意味

「さて事件について、何を思うかという質問については、何も思いません。『闇サイト殺人事件』は既に終わった事件で、12年も経過しているのですよ。今更に事件を振り返ったり、後悔したりしてみたところで彼女は戻って来ないのです。今の私に出来るのは、前述した通り、彼女の冥福を祈る事と、贖罪に努める事と彼女からの報復を生涯背負い続けていく事なのです」

 これは、2007年8月に起こった「名古屋闇サイト殺人事件」の実行犯の一人、川岸健治(かわぎしけんじ)(無期懲役・服役中)が寄せた手紙である。

 この事件は、インターネット上で非合法の職をあっせんする「闇サイト」を媒介に集まった見ず知らずの3人の男が、一面識もない磯谷利恵(いそがいりえ)さん(当時31)を帰宅途中に拉致、暴行・脅迫を加えてキャッシュカードの暗証番号を聞きだした後、さらに暴行を加えて殺害、遺体を山中に遺棄した、というものだった。

 事件の凄惨さはもちろん、犯行が無計画かつ短絡的であることに加え、ネット社会の闇の部分を映し出した点に注目が集まり、大きく報道された。

 川岸のほかに逮捕されたのは、神田司(かんだつかさ)(死刑確定・2015年6月執行)と、堀慶末(ほりよしとも)。この堀は、逮捕後に別の強盗殺人事件が発覚し再逮捕され、2019年7月19日、最高裁判所の決定により、死刑判決が確定することになる。

 非業の死を遂げた利恵さんの無念を晴らすため、最高裁決定までの12年間に亘って裁判や、講演活動で戦い続けてきた母親の磯谷富美子(いそがいふみこ)さんに密着してきたのは、NHK「事件の涙」取材班だった。取材班は「加害者たちの12年」も取材。その成果をまとめた『娘を奪われたあの日から―名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年―』(新潮社)には、冒頭で紹介した犯人の一人である川岸との手紙のやり取りの詳細が報じられている。(以下「 」内、川岸の発言は同書より抜粋、引用)。

犯人へのダイイングメッセージ?

 事件では、犯人たちは利恵さんに「キャッシュカードの暗証番号」を言うよう、執拗に暴行と脅迫を加えた。利恵さんは「2960」という番号を伝えたが、実際には違う番号で、犯人たちは現金を引き下ろすことができなかった。この番号は「にくむわ」という、利恵さんから犯人へのダイイングメッセージだったのではないかと言われている。

 しかし川岸は、真っ向から反論する。

「事件を知る全ての人が『2960』(憎むわ)を被害者が残したダイイングメッセージであると信じて疑わない訳ですが、これは全く事実ではなく、当時被害者の交際相手だったT氏が想像したものを検察が公判を有利に進めるべく、脚色したフィクションだということです」

 川岸は「2960」の他にも、事件で知りえた4桁の番号があることを明かし、他にも検察による証拠の捏造や、創作があるとしている。さらには、自身の弁護士までもが被害者寄りだったなどと書き連ねた上、事件について、

「今迄(いままで)述べてきた通り、闇サイト殺人事件は外見は派手ですが、その実、犯行内容といえば、統率力が欠如している3人がおのおの恣意的に行動した結果、被害者が正しい暗証暗号を伝えたのにも関わらず、3人共これを聞き逃した為に、本来の目的である預金引き出しに失敗したという間抜けな結果に終わったという事件であり、これこそが真実なのです」

 このような川岸の主張はどこまで真実で、どう理解すべきなのか? 取材班は、それまでの取材成果と合わせ、詳細に検証している。

 また2019年、共犯の堀の最高裁決定を前に書いた手紙では、川岸は堀や神田について、こう論評する。

「(堀は)物静かで何を考えているか分からない反面、強(したた)かさと図太さを持って行動し、それに裏打ちされるのは、金・金・金との強い利欲目的のみです。その強かさと図太さが彼の往生際の悪さを後押ししているのだろうと思います」

 そして、自身の処刑が近づいたら、堀は未だ解決していない事件を告白し、処刑を延ばそうとするのではないか、としている。

「一番調子が良くて嘘吐(うそつ)きなのが神田で、一番強かで図太く不気味な存在だったのが堀、そして一番無責任で卑怯者なのが私という事になりますか。結局のところ3人共に自己中心的であり、利欲目的のみに集い、犯罪を犯す事に抵抗感を持っていなかった事が事件につながったのだろうと思いますし、そこへ闇サイトという魔力を兼ね備えた一種の麻薬的ツールが加わる事でより一層の拍車がかかったのだろうと思います」

 さらに川岸は、2018年5月に静岡県で起きた、「第二の闇サイト事件」についても言及している。この事件は、ネットの掲示板に犯罪仲間を募る書き込みを行い、そこで集まった見ず知らずの3人の男が女性を拉致・監禁した後、金を奪って殺害した事件である。

「闇サイトは、暴力団が消滅しないのと同じで必要悪なんですね。なので、闇サイトのかもし出すダークな世界には、興味を示す人は多い筈で、需要が有る限り闇サイトは無くならないし、今後も同様の事件は起きるだろうと思います。(中略)その粗雑な事件をここまでの大事件に仕立てのは、あなた方マスコミのセンセーショナルな報道によるもので、絶大な宣伝効果はほかの事件に勝るとも劣らぬ効果があったのではないでしょうか」

 反省や自責の念を匂わす記述はあるものの、自己の犯した罪に向き合っているとはとうてい言い難い。そんな川岸に対し、取材班は、犯人の中で唯一、死刑判決を免れたのだから、罪に向き合い、贖罪の思いを背負いながら残りの人生を生きてほしい、と綴っている。

 娘を奪われた富美子さんの事件に対する想いはどうか?

「(犯人のうち二人が)死刑になったからといって、何も変わりませんし、どうこうなるわけじゃないんですけども、事件のことを遺族が忘れて次の段階に進む大きな区切りになると思うんです。娘もそうでしょうけど、私も事件のことは早く忘れてしまいたいと思っています。もちろん、それは私自身の問題であって、世間の人にはこの事件を忘れてほしくないんです。娘が生きてきた意味は、こうした事件をくり返さないために、風化させないことだと思うからです」(同書より引用)

 遺族のこうした切実な声を、犯人はどう聞くのだろうか。

デイリー新潮編集部