バイデンが復活した「サウスカロライナ州予備選」 【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート(7)

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 サウスカロライナの予備選挙の前日、午前6時発の飛行機に乗るため、私は4時に起床。2回飛行機を乗り換えて、サウスカロライナの州都コロンビアのホテルに着いたのは、午後8時を回っていた。

 コロンビアまでの1時間ほどのフライトでは、機長が遅刻したため、到着が2時間も遅れた。アメリカの田舎町から、別の田舎町に飛行機で移動するのは、成田からアメリカの大都市に向けて飛行機に乗るよりはるかにエネルギーを使う。

最後の砦

 モンモス大学ポーリング研究所による事前の世論調査によると、予備選挙におけるアフリカ系の有権者が全体の3分の2近くを占めるサウスカロライナでは、前副大統領のジョー・バイデン(77)の得票数が36%。2位は上院議員のバーニー・サンダース(78)の16%。3位はヘッジファンドの元経営者にして大富豪トム・スタイヤー(62)の15%。残り33%のうちの18%を、インディアナ州サウスベンド前市長のピート・ブティジェッジ(38)、上院議員のエリザベス・ウォーレン(70)とエイミー・クロブチャー(59)が分け合うだろう、という予想だった。

 バイデンにとって今回の大統領選挙は、1988年と2008年に次いで3度目の出馬となる。しかも今回、当初は本命視されながらも、これまでの「序盤州(early states)」と呼ばれる3州で1勝も上げていない。さらに言えば、過去2回の出馬でも、トップを取った州が1つもなかった。

 バイデンにとって、サウスカロライナ州は「最後の砦」(firewall)だった。テレビでは、バイデンが何度も、

「サウスカロライナは最後の砦なのか」

 とレポーターに突っ込まれていた。言外には、もしサウスカロライナで負けるのなら、選挙戦から撤退するべきではないか、という意味合いが込められていた。

 しかも、バイデンの選挙資金はほとんど底をつきかけていた。土俵際まで追い込まれたバイデンは、トップを走るサンダースを引き離し、ぶっちぎりで勝つことが求められていた。

 一方、スタイヤーが事前の調査で3位に入ったのは、スタイヤー自身がネバダ州とサウスカロライナ州を重点州と位置づけ、サウスカロライナ州では、テレビコマーシャルだけで1700万ドル以上を注ぎ込んできたからだ。

 州都コロンビアでの選挙区の情報をネットで見ていると、私が取材するレキシントン郡には、教会を投票所としているところがいくつもあった。今まで取材した党員集会や予備選挙では、学校や図書館、公民館などの公的施設が投票所であったことと比べると、いかにも宗教色の強い南部らしいな、と思い、2つの教会を取材先に選んだ。「エドワーズ記念長老派教会」と「ブロードエーカーズバプテスト教会」だ。

 雪に覆われたミシガンと比べるとサウスカロライナの気温は15度。空気中には春の匂いがあふれていた。長老派教会の周りには木蓮に似た花を咲かせた木が何本もあった。

「キングメーカー」が支持

 退役軍人だというネイト・ダニエルズ(72)は、バイデンに投票した、と言う。

「上院議員として過ごした年月に加え、オバマ政権で8年間副大統領職を務めているのがバイデンの一番の強みだ。私は、彼がいい大統領になることを信じているよ。私の関心事は、環境問題と、国の借金が増えていること、それと健康保険制度だ。サンダースの国民皆保険制度? あれはいただけないな。だって、そのために発生する費用は国民も負担するんだろう。サンダースの案には賛成できないよ」

 一生涯を通じて民主党員だと言うキャロル・ボーウェル(89)も、バイデンに投票した。

「オバマ政権の副大統領として、彼の足跡を追ってきて、信頼できる人物だと思ったからよ。2008年も2012年も(バラク)オバマに投票した。オバマ大統領の下で、副大統領を務めたことがバイデンに投票しようと思った大きな理由ね。それと数日前、クライバーン議員がバイデンを支援するって表明したこともあるわよね」

 サウスカロライナ州選出の下院議員ジェームズ・クライバーンがバイデン支持を表明したのは、2月26日のことだった。私自身といえば、投票当日の朝にホテルでテレビを見て、クライバーンの名前をはじめて知った。下院院内幹事を務める民主党内の実力者だという。

 候補者をだれかが支持(endorse)したというニュースは毎日のように流れるが、それがどこまで影響力があるのか分からないものも、数多く交じっていた。

 しかし結果として、このクライバーンからの支持が、バイデンにとって大きな得点となった。『USAトゥデイ』の出口調査によると、投票者の47%がクライバーンの支持が重要だったと答え、さらに24%が非常に重要だったと答えている。クライバーンが、サウスカロライナで「キングメーカー」と呼ばれていることを知るのもそのあとのことだ。

強硬な姿勢を変更

 長距離トラックの運転手をしているドゥエィン・マッコイ(42)も、バイデンに投票した。この日ほど、私のメモ帳にバイデンの名前が並ぶことはなかった。

「ボクの信じるところに投票したよ。信じるところとは、健康保険制度と刑事司法制度のことなんだ。バイデンは、過去に刑事司法制度で、黒人やヒスパニックに厳しい姿勢をとったこともあったけれど、今回の大統領選挙に出馬するにあたって、それを大きく改めた。そこを評価したい」

 マッコイの言う、刑事司法制度に対するバイデンの姿勢とは、1994年に成立した「暴力犯罪取締り及び法執行法」のことである。この法律が、アフリカ系やヒスパニック系などを大量に収監することにつながったとして、大統領選序盤に強く非難されていた。

 こうした批判に対してバイデンは、

「アメリカの刑事司法制度は人種や性別、所得による不均等を取り除くものでないとならない」

 と発表し、従来の犯罪に対する強固な姿勢を変更した。

 どうして刑事司法制度が、マッコイにとって重要か、というと、彼自身がそうした制度の犠牲になったと感じているからだ。

「2009年から2018年までの9年間、麻薬の取引で連邦刑務所に収監されていたんだ。逮捕されたきっかけは、警察による携帯電話の盗聴だった。ボクが麻薬を売っていた相手の電話を警察が盗聴していたんだ。

 けれど、麻薬を持っていたところを現行犯で逮捕されたわけじゃない。盗聴ならば、本当は3年ぐらいの刑期で済むところを、3倍の9年間過ごしたことは、ボクが黒人だったことと関係していると思っている。白人なら9年の実刑は受けていないはずだ」

 マッコイは9年服役する間、オクラホマ州やバージニア州、コネチカット州、オハイオ州などの刑務所を転々としたという。

「連邦警察に捕まったので、国内のどこの刑務所にでも行かされるんだ。それも、朝起きたら、今日からお前はバージニア州だ、って感じで、何の予告もなし。ただ、ボク自身が、麻薬を使ったことはなく、売ってお金儲けするだけだった」

 いやいや、驚いた。

 民主党の投票所で、1年前まで刑務所に入っていた元麻薬ディーラーに出くわし、その人物が自らの体験に基づき、アメリカの司法制度に根付く人種差別について語ってくれるとは。

 ここはどうしても写真を撮りたいなぁ。

 インタビューはOKでも、写真はイヤだという人も一定数いる。何気ないふりを装って、写真を撮らせてほしい、とお願いすると、二つ返事で了承してもらい、教会の外に出て写真を撮った。

 あとで調べていて気づいたのは、刑罰の軽重を知ろうとすれば、前科などを子細に訊く必要があったのだが、そこまでは気が回らなかった。というか、これはいい投票者を見つけた、と浮足立ってしまった。

 ネットで調べると、たしかに「(アメリカ)合衆国vs.マッコイ」という判決文が見つかり、2014年に刑が確定していることが分かる。しかし、内容となると素人では読み解けない文言が並んでいる。

受け入れる準備がない

 20代で、早稲田大学に留学して日本語を勉強したというチャック・ラマーク(69)もバイデンに投票したが、その理由はこれまでの投票者たちとは大きく異なる。

「バイデンの政策や人柄が好きだというより、一番大統領になる確率が高いと踏んで投票した。戦略的な投票だった。政策だけならバーニーの方が好きだし、人柄で言うとピート市長も捨てがたい。経済政策ならば、すでに選挙戦から撤退した(事業家の)アンドリュー・ヤンが一番よかった。

 けれど、バーニーの国民皆保険制度も、ゲイであることを公言しているピート市長も、国民側にまだ受け入れる準備ができていない、と思うんだ。そうした候補者が、大統領になると、必ず反動が起こる。

 オバマ大統領も、そういう意味では大統領になるには早かった。その反動が、(ドナルド)トランプという形になって表れたんだと考えているので、バーニーやピート市長ではなく、穏健なバイデンに投票したんだ」

 うーん、と私は唸った。

 これは大統領選挙を取材するようになって、私自身が考えていたことと一致するんだなぁ。

 トランプ関連の資料を読み、ドキュメンタリー番組や映画を観ていくうちに、トランプ大統領誕生の背景には、2008年にアメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人の大統領となったオバマの存在があったことに私は気づいた。

 遠く日本から見ていた時は、オバマの大統領就任は、アメリカの多様性が成熟した結果に映っていた。しかしその時、対抗する共和党は全力でオバマの行く手を遮ろうとしていた。

「ペイリン」から「トランプ」へ

 2008年の大統領選挙の相手は、共和党の重鎮である故・ジョン・マケイン上院議員だった。そのマケインが副大統領候補に選んだのが、アラスカ州知事のサラ・ペイリンである。

 当時、日本ではほとんど無名に近かったペイリンだが、トランプのパイロット版のような存在で、大衆の人気を得るためには手段を選ばないポピュリスト型の政治家だった。2009年から始まった、保守派の草の根運動である「ティーパーティー」の活動にも深く関わる。そのティーパーティーは、2010年の中間選挙で共和党が議席を伸ばす一翼を担った。

 のちに、トランプの選挙参謀となる右翼のネットメディア『ブライトバート・ニュース』の会長を務めたスティーブン・バノンの目に留まる。バノンは、ペイリンを2012年の大統領選挙に担ぎ出そうと、ペイリンを賛美する映画まで作るが、本人は立候補を見送った。

 ペイリンと同調するかのように行動していたのがドナルド・トランプである。

 オバマはアメリカ生まれではないので、大統領になる資格がないという「オバマ国籍陰謀論」を繰り広げていたのが、トランプだった。その陰謀論がピークに達した2011年、オバマが正式な出生証明書を公開することで、トランプの主張がデマであったことが証明され、トランプの2012年の大統領選選挙の出馬の芽が摘まれる。

 オバマはその直後、1000人近くの関係者が集まるホワイトハウスの夕食会にトランプを招待し、その席上で、陰謀論にのめりこんだトランプを徹底的に嘲笑のネタにして、満座の笑い者にした。

 この時の深い屈辱感が、2015年の出馬表明につながった。そこに目を付けたのが先に挙げたバノンである。バノンは、メキシコの移民やイスラム教徒の入国禁止といった政策をトランプに授け、トランプがそれを実行に移したため、現在、アメリカが大きく分断されて今日に至る。

 現在のアメリカで、社会が分断されていることの弊害はいたるところに見て取れる。

 一例が、新型コロナウイルスへの対応だろう。トランプがどれだけ大丈夫と繰り返しても、多くの人々はその言葉を信じることができず疑心暗鬼に陥り、パニックを引き起こす。

 そうした不安定な社会情勢の中で、社会民主主義を掲げるサンダースや、ゲイを公言しているブティジェッジが大統領になれば、どれほど大きな揺り戻しがくるのか分からない、という不安はたしかに存在する。

サンダースの政策に共感

 アフリカ系の投票者のすべてがバイデンに投票したわけではない。

 ジェームス・ウィリアム(49)は、サンダースに投票した。

「2016年からずっとバーニーを応援している。バーニーが発する革新的な雰囲気が大好きだ。(マイケル)ブルームバーグのような大金持ちとはちゃんと一線を引いて交わらない。

 国民皆保険も大賛成。ボクはトラックを運転して集配の仕事をしていたんだけれど、物流会社がコロンビアにある物流センターを去年11月に閉鎖した。3月から新しい職場でハンドルを握る予定だけれど、その間は無保険。いつ病気にかかったり怪我をするのかは分からないので、不安だったけれど、バーニーの国民皆保険が成立すればそんな心配もなくなるだろう」

 環境問題の研究所で働いているというネオミ・ノウマン(24)は、サンダースに投票したという。

「大学の学費の無償化や国民皆保険という革新的(progressive)な政策が大好き。エリザベス(ウォーレン)は、2番目の選択肢。なぜならバーニーの方がより革新的だから。この国には、革新的な考え方とそれを実行に移せる大統領が必要なのよ」

 20年近くサンドイッチ店を経営しているクリス・キューニー(62)も、一生涯民主党員で、サンダースに投票した。「サンダースには、国民皆保険を実現してほしいね。僕は毎月860ドルの保険料を払っているけど、控除額は年6500ドルだ。それが、サンダースの主張する国民皆保険が成立すれば、保険料は払わなくて済み、控除額もなくなる。そのためなら、税金を多少負担してもいいと思っているよ。保険が一番の関心事。その意味では、ウォーレンもいい候補者だ。

 2番目の関心事は、トランプの愚かな発言のせいで、コロナウイルスが国民の心配の種になっていること。ほんとにトランプには、心底がっかりさせられるよ」

――でも、経営者ならトランプ減税の恩恵を受けたのでは。

「たしかに法人税は下がった。けれどその分、不正義(injustice)がはびこるようになった。トランプは、人種差別主義者で、女性嫌いで、いつも嘘ばかりついている。トランプに投票するぐらいなら、そこに置いてある(折り畳み式の)イスにでも投票する方がましだよ」

奇妙な投票者

 奇妙な投票者に出くわしたのは、午前中のことだ。

 マーク=仮名(27)は、ファーストネームだけで、ラストネームも写真撮影もなしという条件で取材に応じた。保険産業で働いているという。

「ボクはジョン・ディレイニーに投票したんだ」

 ジョン・ディレイニー(56)とは、メリーランド州の元下院議員で、2月のアイオワ州の党大会以前に選挙戦から撤退している。なぜ撤退した候補者に投票したのか。

「ボクが民主党の政策すべてに反対していることを投票で表すために、投票しても無効になるディレイニーに投票したんだ」

 その朝のテレビで放送していた、同州のティーパーティーが唱道していた「陽動作戦(Operation Chaos)」のことかな、と思った。ティーパーティーの指導者が共和党員に向け、トランプの再選が有利になるよう、トランプが御しやすい社会民主主義を唱えるサンダースに投票しようと呼びかけていたのだ。

「いやそれとは関係ないんだ」

 とマークは言う。

「民主党の全候補者は、経済政策でも道徳的な面でも腐敗している、と考えてる。福祉のバラマキは、国民から勤労意欲を奪ってしまう。政府は小さいのが一番。あとは市場に任せるべきだ。それ以上に我慢がならないのが、中絶の問題に民主党の候補者全員が甘いこと。クリスチャンのボクからすると、中絶は人殺しと同じことだからね」

 ここまでなら、これまで何度か耳にしてきた主張である。

 このマークが奇妙だと思ったのは、その後の行動である。

 彼への取材が終わり、私が次の投票者に話を聞こうと名刺を渡していた時、いったん教会から出て行ったウェードが戻ってきて、

「絶対、今の話は匿名にしてくれよ」

 と念を押しに来たのだ。さらに翌日、私の携帯電話に、記事を書き終わったら記事のURLを送ってほしい、とメッセージを送ってきたのである。

 日本語の記事であっても、ネットの自動翻訳を使って読むことができるのは知っている。しかし、これまで300枚近い名刺を渡して取材してきたが、そこに記載されている携帯電話に連絡を取ってきたのは、彼だけである。なぜだ、という疑問が胸に残った。

サウスカロライナ流投票の仕組み

「サザンホスピタリティ」という言葉がある。南部のもてなしの心というか、日本で言うお節介焼きに近い感じか。

 この日も午前中に取材していると、投票所のボランティアである私と同年代のヘレンという女性が、頼みもしないのに、コロンビア市内のお勧めのレストランを何軒も教えてくれた。

 一番のお勧めは、州内で4店舗を展開する「リバティ」と2年前にオープンした韓国料理の「929キッチン&バー」。昼食中にスマホで検索してみると、「リバティ」のサイトには、ピザやハンバーガーなどが並ぶ。「929」では、ビビンバや韓国風タコスなどが並んでいた。たしかにおいしそうである。しかし、翌朝飛行機に乗り、スーパーチューズデーの取材のために移動する身には、ちょっと時間が足りない。

 サザンホスピタリティは、午後に取材した教会でも発揮された。

 スーザンという60代の女性が、投票の仕組みを説明してくれるという。

(1)免許証などの写真付きのIDで本人確認をした後、「Authority to vote」と書かれたブルーの用紙をもらう。

(2)ブルーの用紙と交換で、白い長細い投票用紙をもらう。

(3)3台置かれていた機械に用紙を差し込むと、画面上に候補者のリストが出てくる。

(4)候補者を選んで、問題がなければ、確認のボタンを押す。

(5)候補者名が印刷された投票用紙が出てくる。

(6)その投票用紙を1台だけ置かれたスキャナーに読ませる。

(7)スキャナーの画面に、「あなたの投票用紙をスキャンしています」「あなたの投票は正確に数えられました」という表示が出てきた後、投票用紙はスキャナーの下に設置された集計箱に落ちてゆき、そこで集められる。

(8)投票者には、星条旗が描かれた「I Voted」というシールが手渡されて終了。

 スムーズに進めば、5~6分で投票が終了する。

 各州の独立性を重んじるアメリカでは、党員大会でも、予備選挙でも、各州の民主党と共和党が集計の方法を決める。サウスカロライナの予備選挙でうまくいったシステムが、次のスーパーチューズデーで使われるとは限らない。

既成政治家への反発

 スタイヤーに投票したという有権者の声も紹介しておこう。

 パトリシア・ベイカー(58)は、現状の政治に変化を求めてスタイヤーに投票した、と言う。

「世論調査で有利と言われているサンダースもバイデンも、長いこと政治家をやっているわよね。スタイヤーのように、既成の政治に染まっていない実業家の方が、アメリカに必要な変化をもたらしてくれると思うの。最低賃金の引き上げや、学費ローンの返済免除などね。

 実際にスタイヤーを見たことはないけれど、テレビコマーシャルから彼の人となりは十分に伝わってきたわ。スタイヤーなら、事業で何度も破産しているトランプを打ち負かして大統領になってくれると思うの」

 ミック・カーネット(67)は、実際にスタイヤーを見たという。

「引退してから、サウスカロライナ大学で政治学の授業を受けているんだ。ドナルド・ファウラーという、以前に民主党の全国委員会議長を務めた教授がいて、去年、スタイヤーやクロブチャー、ウォーレンなどを授業に呼んでくれたんだ。そこで、候補者から直接話を聞くことができた。

 その、スタイヤーが持論である環境問題や健康保険の政策を率直に語る姿を見た時から、投票しようと決めていたんだ。スタイヤーの威張らないけれども、言いたいことは言うという力強い姿勢にも共感できた。テレビコマーシャル? テレビはほとんど見ないので、その影響は受けていないな」

奇跡の圧勝

 投票結果は、ジョー・バイデンにとってサウスカロライナの奇跡とも呼べる逆転劇となった。

              得票数     得票率 誓約代議員数

1・ジョー・バイデン    26万1897票   48.7%  38人

2・バーニー・サンダース   10万6342票   19.8%  15人

3・トム・スタイヤー      6万1048票   11.3%  0人

4・ピート・ブティジェッジ  4万4139票    8.2%  0人

5・エリザベス・ウォーレン  3万8034票    7.1%  0人

6・エイミー・クロブチャー   1万6877票    1.3%  0人

 サウスカロライナ州の予備選挙では、得票率が15%を超えないと誓約代議員が割り振られないという規則のため、上位2人だけが、誓約代議員を獲得した。

 バイデンは、サンダースに倍以上の差をつけて圧勝した。バイデンの1人勝ちと言ってもいい。

 バイデンが投票日の夜、コロンビアで勝利宣言をするのは知っていたが、テレビで見ることにした。

 バイデンは、妻のジルと彼を支援したクライバーンと一緒に壇上に立ち、開口一番こう叫んだ。

「今まで叩きのめされ、除外され、見放されてきたあなたたち、このキャンペーンはあなたたちのものです。数日前まで、メディアや評論家は、この選挙活動は終わった、と言っていました。しかし、民主党の良心である皆さんのおかげで、私たちは勝つことが、いや大勝することができました。われわれのキャンペーンはまだ生きているのです」

 バージニアで遊説中だったサンダースは、こう語った。

「すべての州で勝つことはできません。今夜、われわれはサウスカロライナで勝つことができませんでした。これから先も負けることはあるでしょう。どの候補者であっても、すべての選挙で勝つことなどできないのですから」

 サウスカロライナにおけるバイデンの大勝は、果たして3日後に控えたスーパーチューズデーにどのような影響を与えるのか。

 翌朝5時に起きた私は、スーパーチューズデーを取材するためロサンゼルス行きの飛行機に乗り込んだ。

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横田増生
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て米アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスに。2017年、『週刊文春』に連載された「ユニクロ潜入一年」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞(後に単行本化)。著書に『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局)、『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)、『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)、『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)など多数。

Foresight 2020年3月14日掲載

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