【新型コロナ】R-1ぐらんぷりでわかった芸人が“無観客”で演じる難しさ

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「R-1」の放送時間が余った深い理由

 確かに談志なら、「俺の落語が聞きたいなら、お前が自分で金を払え」と言いそうだ。エキストラの観客とは本質的に矛盾した存在に違いない。しかし吉川氏は「とはいえ、無観客の収録とは天地の差があります」と言う。

「観客が笑っている時、芸人は黙っています。この間が極めて重要なのです。ところが無観客となると、どれほどスタッフや審査員が笑ったとしても、本当の観客が巻き起こす爆笑とは全く違います。すると芸人は焦ります。焦ってネタを次へ次へと急いで進めてしまうのです。適切な間が失われてしまうことで、どんなネタでもつまらなく見えてしまうんです」

 漫才なら相方がいる。2人で会話をすることで、ひょっとすると通常の間やリズムを取り戻せるかもしれない。しかしピン芸人となると、前に進むしか方法はない。

「いつもの間やリズムが完全に崩れてしまいますから、誰がネタを披露しても、面白くないに決まっています。本来の実力なんて、誰も出せなかったでしょう。だからテレビの視聴者に、今回のR-1は不評だったのだと思います」(同・吉川氏)

 吉川氏の指摘を裏付けるような記事がある。スポニチアネックスが3月9日に配信した「野田クリスタル R-1無観客V ネタ番組でメンタル強化『有利だとガッツポーズ』」から該当部分をご紹介する。

《番組も淡々と進行したため、放送の時間が最後に余るという“異例”の大会となった》

 無観客のため“間”を図れなかったピン芸人が、どんどん次のネタに取りかかった。吉川氏の指摘が現実のものとなり、収録時間が余ったのだ。

「どんな芸人でも、芸を披露しながら観客と適切な“間”を探っていきます。その感覚を言語化することは難しく、まさに芸人だけが持っているものなのです。その技を封じられたのですから、出場者の皆さんは、もし本音が言えるのなら、出演が嫌だったでしょうし、怖かったと思います」

 決勝戦に挑んだメルヘン須長(34)は無観客について、《今日私が出演したライブはお客様3名でした》とツイートで笑わせ、優勝した野田クリスタルは記者会見で「無観客のほうがやりやすいと思ってました」と明かした。

 ちなみに野田は、無観客でネタを収録していたという「あらびき団」(TBS系列・2007~11年)に触れ、《メンタルを鍛えられた》と振り返った。

 だが吉川氏は「ファンを安心させようとした、リップサービスの可能性も否定できません」と言う。

「結論から言えば、放送は延期してほしかったですね。あれでは芸人が可哀想だと思います。今回は総集編などでごまかしてでも視聴者に謝罪し、スタジオに観客が呼べるようになってから開催すべきだったのではないでしょうか」

週刊新潮WEB取材班

2020年3月12日掲載

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