高齢者を縛り2千万円強奪…渋谷「アポ電強盗」が不起訴の裏側

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 老人を喰いモノにする犯罪は後を絶たないが、それにしても、である。カネがあると分かれば、もはや相手に振り込ませるまでもなく、自ら奪いに踏み込む始末。そんな荒仕事でお縄となった男たちが、一転して「不起訴」に――。そのウラに何があるのか。

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 昨年1月中旬、渋谷区初台に住む男性はインターフォンの音で目を覚ました。

「何しろ、朝の5時半で辺りは真っ暗。寝ぼけまなこで玄関を開けると、向かいのお宅のおじいちゃんが寝間着姿で助けを求めてきてね。憔悴し切った様子でこんなことを言うんです。強盗に手足を縛られていたけど、自力で抜け出した。電話線を切られてしまったので警察を呼んでほしい、と」

“強盗”に押し入られたのは、当時93歳の男性と86歳の妻が暮らす一軒家だった。

 社会部記者が言う。

「その後の捜査で、事件の2日前に夫妻の息子を装った男から“仕事でトラブルを起こした。カネをいくら用意できるか”という電話が入っていたことが分かりました。いわゆる“アポ電”です。強盗犯は夫妻を粘着テープで縛り上げて暴行し、男性は腰椎を骨折するなど全治3カ月の重傷。妻も顔面を殴られ、現金2千万円が奪われています」

 そもそも、“アポ電”とは、

「オレオレ詐欺などの特殊詐欺グループが、アタリをつけた家に電話をかけ、資産状況や家族構成を聞き出すやり口。昨年4月から12月までの9カ月間だけで9万件以上にのぼり、2017年11月以降、17件が強盗に押し入られた。昨年2月には、江東区の80歳女性も“アポ電”強盗に遭い、殺害されています」(同)

 特殊詐欺全体の被害額は昨年も300億円超。しかも詐欺に加えて、“強盗”という新たな脅威まで降りかかっている。渋谷の事件では、昨年9月に20代の男4人が強盗致傷などの疑いで逮捕された。だが、4人は翌月に処分保留で釈放。2月13日に不起訴処分が言い渡されたのだ。

“黙秘”のマニュアル

 先の記者が続ける。

「付近の商店街に設置された防犯カメラには犯人の姿がしっかりと写っていました。警察はそうした映像を集めて犯人の行方を追跡し、最終的に身柄を押さえています。ただ、犯人は目出し帽で顔を隠していた上、取り調べに対しても“記憶にありません”“黙秘します”と繰り返すばかり。特殊詐欺グループの周辺には逮捕時のマニュアルがあるようで一切口を割らないのです。物証もなく、結果的に嫌疑不十分で不起訴となりました」

 さらに、公判の維持を難しくしているのは“被害者”側の事情だ。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏によれば、

「高齢者が深夜に襲われれば、気が動転して記憶がおぼつかないのも無理はありません。ショックから声が出なくなった被害者もいるほど。そうなれば、公判の支えとなる被害者の供述が得られません。実は、静岡県でもアポ電強盗で逮捕された男が昨年7月に不起訴となっています」

 いい加減な捜査で冤罪を生むのは論外だが、渋谷の件の容疑者は関与が濃厚。たとえ検察が起訴しなくとも、警察の逮捕が犯罪の抑止力となる面もあろう。

週刊新潮 2020年3月5日号掲載

ワイド特集「地図なき旅行者」より

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