医療&刑事ドラマに飽きたあなたへ 辛口コラムニストがおススメするドラマとは

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小ぢんまりのよさ

 で、「コの字」にしても「孤独の」にしても、ドキュメンタリー部分の存在ゆえにドラマ部分には皺寄せがくるわけで、尺も予算もドキュメンタリー部分に持っていかれるドラマ部分をさて、どう仕立てるか、そこが番組づくりの肝になるわけですが、うまくできてる作品の場合、筋立ても配役も演出も演技も、いい意味で小ぢんまりしてる。

「孤独の」なら、ストーリーは、腹減った→店見つけた→注文迷った→料理食った→俺満足したという、おっさんひとりの食欲が満たされるまでの行動および意識の流れくらいで、一見おおげさに映る松重豊の芝居も、舞台や映画、助演のドラマと見比べれば、相当抑えた“小芝居”であることがわかる。

 一方の「コの字」も、話の骨格は6段落前で紹介したとおりにシンプルで、大上段に構えたところのない“小話”だし、松重より若くて男女ペアである分はしゃいで見える主演ふたりの演技も、決してうるさくはない。演出・編集も達者で、たとえば、ちょと珍しいフジツボの食べ方を教え、教えられるシーンの処理なんて感心したくらい。

 モノ喰う系ドキュメンタリーだったら手本を見せる側の所作とそれを真似る側の所作、その両方をまるごと繰り返して冗長になりがちなところなのに、「コの字」では殻から中身を引き出すまでを先輩の中村がやってみせたすぐ後に、後輩の浅香が身を口に投じて歓喜する画が続く。中村が身を食べてみせ、浅香が身を引き出してみるくだりはカットしてあるから、ドキュメンタリーっぽいマドロっこしさがなくて小気味いい。

 尺(放映時間)はプライム帯の連ドラの半分で小ぢんまり。そのうちのドラマパートでは決して大スターではない役者の“小芝居”で“小話”を小気味よく見せて、ドキュメンタリーパートで映し出す小体(こてい)な店の大げさではない料理、酒、人を引き立て、際立たせる。そういう何もかもがコンパクトでスマートな具合がなんだか心地よいのは、TVが全体としてますますデブでよろよろになってきてることの裏返しかもしれません。

 あらためて思い出すのは、同じ呑み喰いドラマながらキムタク主演でコンパクトでもなければスマートでもなかった「グランメゾン東京」だったり、人命だの人生だのを左右する大テーマで大仰に大法螺を吹き続ける医療モノ・捜査モノの凡作駄作の山また山だったり。服はユニクロにワークマン、クルマはスズキにダイハツ、家具はニトリに無印が売れてる国だもの、連ドラだってもう「コの字」くらいで、いや、「コの字」くらいがちょうどよくなってきたのかもしれません。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月2日掲載

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