医療&刑事ドラマに飽きたあなたへ 辛口コラムニストがおススメするドラマとは

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 連ドラ、相変わらずですね、1-3月期も。民放のプライム帯(19~23時)で放送中の14本のうち、6本が医療モノで、5本が捜査モノ。残る3本も警察検察が主な舞台ではないものの犯罪が絡むミステリ系と、いやもうホントに煮詰まってます、ニッポンのドラマ――と嘆くのはコラムニストの林操氏だ。では、彼が今、お気に入りのドラマとは……。

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 前から何度も言ってる話の蒸し返しになって恐縮ながらワタシ、ごく少数の例外を除いて医療モノ・捜査モノにはとうの昔から飽き飽き食傷うんざりげんなり。今や同工異曲の粗製乱造がパンデミック起こし、ドラマ屋サンたちが柳の下で池の水ぜんぶ抜く勢いで探し回ってみても、泥の中で蠢いてるのはもはやドジョウじゃなくミミズとかゴカイみたいな何かばっかりです。

 だからこそ、本物のドジョウやフジツボが旨そうに出てくるドラマに惹かれちゃいまして……ってわけじゃないんだけれど、今期これまで一番ちゃんと見続けてるのは「今夜はコの字で」。テレ東の、BSの、深夜のドラマ(BSテレ東・月曜25時~)という、(いまだフジの月9がブランドだと信じ込んでるようなメジャー志向の類人猿から見れば)三重苦そろった小品ながら、これがなかなかの出物なんだわ。

「コの字」ってのは呑み屋さんのカウンターのレイアウトで、“天井から目線”で見下ろしたときに長いカウンターがコの字型に折れ曲がって配され、その外周をぐるりと客が取り囲む、昔懐かしいあの形のこと。

「座れば、左右、斜め、人の顔が並ぶ、上座も下座もなく、フラットな場。いわばそこは人と人が触れ合う舞台」と、毎回ドラマの頭で流れるナレーション(by下條アトム)のとおり、世知辛い現実世界においても、やたら心踊り、やがて心落ちつく場であるわけですが、そのコの字酒場が舞台、というより主人公の連ドラがまた、心が踊ったり落ち着いたりする時間を紡ぎ出してくれてます。

 仕事に恋に小悩みしがちなアラサー広告マンの浅香航大が、大学の先輩でフードコーディネーターやってる中村ゆりのガイド&リードで、チェーン居酒屋とはいろいろ違うコの字な店をあちこち巡るうちに、酒と肴と大人の人生に開眼していく……っていうのが、筋っちゃ筋ながら、このドラマの場合、そういう筋より重要なのは、煮込みだったりおでんだったり串焼きだったりのスジの方かも。

 なにしろ、一話ごとに違った店が登場するコの字酒場は、すべて東京だの横浜だの下町に実在するお店で、呑み喰いシーンはすべてロケ。まずは一杯のビールから特製シロップで割ったチューハイを経て呑み過ぎでカウンターで寝込むポン酒に至るまで、そして、突き出しの小鉢から名物のメインディッシュを経て〆の炭水化物に至るまで、旨そうなものがみな旨そうに撮れてやがって、これが最大の眼の毒であり、眼福であり。

 もっとも、口に入るものだけじゃなく、店にたどり着くまでの町並みや店内の造作(昭和、というより戦後、というより高度成長期が剥き出し)、回によっては役者じゃなく素人のモノホンが登場する店主に客、その他いろいろがまた眼に耳に優しくて、つまりは「今夜はコの字」、ドラマの看板は掲げつつ、相当な部分がドキュメンタリーでもあリます(ニッポンの、特に民放ではもはやドキュメンタリーは絶滅危惧種ゆえ、情報バラエティーと呼んだ方が正確かもしれないが)。

 この半ドラ半ドキュってのは、同じテレ東(ただし地上波)が深夜ドラマの名作「孤独のグルメ」で当てたお家芸だとして、「コの字」にせよ「孤独の」にせよ(どっちも原作漫画からして半虚半実の傑物)、あるいはその間にもあれこれあったテレ東・深夜・B級グルメ現場探訪ドラマのいずれにせよ、考えてみるとよく似てるのは、「美味しんぼ」やら「グランメゾン東京」やらグルメものドラマよりむしろ、「昼めし旅」(テレ東系・平日昼)とか「ぶらり途中下車の旅」のようなモノ喰う系ドキュメンタリー。

 さらに、呑み喰いっていうファクターを外してみれば、素人が主人公のドキュメンタリーのくせしてドラマ味が濃い「ポツンと一軒家」や「家、ついて行ってイイですか?」あたりとも半虚半実感がけっこう共通してて、ああ、これが今のTVの面白さなのかねぇという気さえしてきます。

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