ビジネスマンにも効く「野村克也さん」金言集 野球論より先に選手に説いた“人生論”

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「マンネリからは発展がない」

〈同じ話の流れで、監督だけでなく選手の求心力についても触れていた。〉

「中心なき組織は機能しない」も私の持論。グラウンドではもちろん、私生活でも自分を厳しく律し、全身全霊をかけて野球に取り組む中心選手がいれば、チームも自ずとそうなっていく。

〈野球チームにかぎらず、どんな組織にも応用できる金言だが、ノムさん自身は、どのようにして選手に信頼され、選手を育ててきたのか。90年のシーズンから就任し、チームを優勝に4回、日本一に3回導いたヤクルト監督をやめた際、野村流のチームづくり、人づくりの秘訣を披露していた。〉

 自分の南海ホークスの在籍時代、27年間の現役生活を振り返って、野球だけを教えて、本当にそれが血となり、肉となるんだろうかと頭をひねったときに、それは違うと、はっきりわかったんです。「文武兼ね備えてこそ無敵」という言葉があります。

 野球選手は「文」のほうがどうしてもバランス的に欠けている。そこで最初キャンプへ行ってやったのは、野球作戦のミーティングじゃなくて、人生論とか、社会観とか、あるいは組織論とか、チーム論とか、生きていくうえにおいて必要な人間関係の、そんなことを題材にした話ばかり1カ月かけたんです。野球はシーズンに入ってから十分に教えていけると思ってね。

〈どんな結果を想定して、そうしたことを選手に教え込んだのか。〉

 まず言った。選手引く野球イコールゼロの人生でいいのか、ってね。25歳、26歳までは無我夢中でやりなさい。それで30歳前後になったら、自分の将来はどうなりたいのか、なんとかして野球の仕事に携わっていきたいのか、バサッとやめて別の世界に行くのか、志といったものを少しは考えてみなさい、とね。

 そういう現実世界との接点を想像させないと、本当の野球は身についていかないんですね。つまり「野球という仕事は、お前の人生において何なんだ」ということです。これは、それぞれの人生を大きく左右するんですよ。その大前提の哲学がなくて、野球だけうまくなるはずもない。もっともこのことは、普通のサラリーマンのみなさんにも言えることですけどね。

〈その延長として、個々の意識のあり方を重視したという。〉

 心の持ち方によって、意識が変わってくる。意識が変われば、当然行動も変わってくる。意識なくして人間は行動できないわけですから。だから、投げるときも、打つときも、なんらかの意識が入っていないとだめなんだと。そういう私のつたない知識を、選手一人一人に提供していくなかで、みんないろんなことを考えるようになっていき、それが優勝や日本一につながったんじゃないでしょうか。

〈これに近い内容を、別の言葉でこんなふうにも表現していた。〉

 いまはただ打って守ってというね。つまり、個人記録を残すことがチームに貢献しているんだという考えが主流になっている気がするんですよ。そうじゃないんだと。勝つため、優勝するためにどうするか、一人一人やっていくべきで、結果として、記録はついてくるものなんです。

 このごろは逆に、格好だけの茶髪野球が増えている気がするんですよね。世間も、単に野球は楽しめばいいとか、明るくやればいいとか、そういう風潮だけど、はたして、それが正しいんだろうか。野球というのは、やっぱり人間学そのものだし、人生の縮図であると、私なんか思う。

 それから、明るさ楽しさばかりでなく、暗さもずるさも悪さも野球だし、人使いとか人間の持っている本能とか、心理、性格、欲望を含めた、すべて人間の姿が出てくるのが野球なんじゃないだろうか。

〈しかし、日々のそうした教えも、マンネリという波は避けられなかったようだ。〉

 野球というのは、同じ戦う集団であっても、現在の戦争と違って、古いタイプの戦いでね。だから孫子だとか、孔子、孟子といった人たちの時代の、何千年前の戦争、ああいうもののなかから生まれた知恵が、なかなかバカにならない。私自身そういうなかから、いろいろなヒントを見つけて、自分流にアレンジしてやってきたわけですよ。

 ただ、そうした考えが、最近は必ずしも通用しなくなった。一つは最近の若者の気質によるんだろうけど、もう一つはマンネリなんでしょうね。私がいいことを言っても、1度目は新鮮だが、2度目はまたかということになる。そんなわけで、マンネリ化ということがどうしても生じやすい時代だと。マンネリからは発展がないんですよ。進歩というのは変わることですから。

(2)へつづく

週刊新潮 2020年2月27日号掲載

特集「『憲法より礼儀』『出世する人はほぼ恐妻家』 子どもからビジネスマンにまで響いた『野村克也』金言集」より

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