法廷にカギをかけたから裁判無効→やり直しを命じた裁判長の「税金無駄遣い」

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 東京高裁の後藤眞理子裁判長は2月6日、一審の判決を破棄して差し戻した。その判断は崇高な理念に基づく法の遵守か、それとも四角四面な対応というべきか。

 コトの発端は、前橋地裁太田支部で昨年10月に開かれた裁判だった。

 社会部記者によれば、

「窃盗や住居侵入などで逮捕された64歳男性の裁判で、群馬県警の警察官が開廷時に傍聴席側の入口を内側から施錠してしまったんです。すでに、法廷内には2人の傍聴人がいたものの、審理中に出入りしなかったため、結果的に“密室状態”で閉廷しました」

 閉廷後、入口の施錠に気づいた裁判所の職員が、近くにいた警察官を問い質すと“逃亡防止のためだった”と釈明したという。その後、裁判長が検察側と弁護側に事情を説明して両者が納得したため審理はやり直さず、後日、被告に懲役1年4月、執行猶予3年の判決を下した。が、問題はここから……。記者が続ける。

「日本国憲法82条1項で“裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ”と裁判の公開原則が規定されています。高裁は“自由に審理を傍聴できなかった”とし、一審自体を憲法違反にあたると判断したんです」

 つまり、裁判のやり直しは、被告の罪とは無関係だったわけだ。専門家は、この判断をどう見るか。

「あまりにも、杓子定規な対応ではないでしょうか」

 と、語るのは国士舘大学特任教授の百地章氏だ。

「警官がカギをかけたのは意図して密室にしようとしたわけではなく、軽微な過失でしょう。また、法廷に傍聴人が2人いた時点で“法廷の公開”が成立していると考えられるし、閉廷後に裁判長と検察、弁護人の3者が了承したのですから、憲法の規定を否定するものではないと思います」

 近年、訴訟件数は増加の一途を辿り、2014年に349万4031件だったが、5年後には362万2502件に上っている。

「憲法37条1項では“迅速な公開裁判を受ける権利”を定めています。この程度の理由で判決を破棄するのは、迅速化の理念に反しかねません」(同)

 裁判の運営経費の多くは国が賄っているので、裁判のやり直しは税金の無駄遣いになるのではないか。原因を作った群馬県警からは回答がなかったが、太田支部に代わり前橋地裁総務課の担当者に聞くと“ご意見は承りました”との返答だった。

 後藤裁判長も、もう少しだけ柔軟に対応してみてはどうだったか。

週刊新潮 2020年2月27日号掲載

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