深夜の公園に徘徊男性を置き去りに 愛知県が謝罪した「福祉行政」の現実

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 まるで犬猫を捨てるように、愛知県の職員は老人を置き去りにした。午前0時、雨が降る公園。この常軌を逸した行為によって、図らずも、福祉行政が直面する現実が浮き彫りになった。

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 愛知県海部(あま)郡大治町(おおはるちょう)は、名古屋の中心街までわずか5キロ、車で約20分。名古屋のベッドタウンと呼ばれる町だ。そんな町の周辺で、未曾有の不祥事は起きた。

「津島市にある県の施設、『海部福祉相談センター』の職員2人と、指示を下した課長補佐級の3人が置き去りにした中心人物です」

 と、社会部記者が一連の経緯を解説する。

「先月17日、大治町でキャッシュカードを持たずにATMを操作していた70代男性を警察が保護し、彼らが引き継ぎました。その後の対応に困り、男性をセンターの管轄外である名古屋市の公園まで連れて行き、置き去りにしたのです」

 男性は会話や筆談ができない状態だった。後に判明するが、脳梗塞を発症していた疑いがあったのだ。

「身元不明の病人は市町村に救護義務があります。なのに、最初に警察から打診を受けた町の民生課は“生活保護業務は担当外”とセンターに回した。引き継いだ職員2人は、社会福祉法に基づいて無料低額宿泊所へ搬送したものの、健康上の理由で受け入れを断られた。そこから先のマニュアルがなかったのです」

 福祉行政は、絵に描いたように破綻していたのだ。

保護は未経験

 記者は続ける。

「困った職員2人は、電話で上司の課長補佐級職員に相談しました。ここからがキモです。上司は管轄区域外へ搬送し、消防に連絡するよう指示をした。つまり救急車です。2人は隣接する名古屋市内に移動し、公衆電話から偽名で119番。救急隊を待たずに置き去りにしました」

 結局、男性は警察に保護され、寒さを逃れたが、

「センターに疑いを抱いた警察に、上司は“男性が自ら移動したので見失った”などと嘘を重ねました。センター内の会議でも同じように嘘をついていた。しかし1月末にはすべてが露見し、2月に入って男性の家族に謝罪しています」

 救いようのない不祥事だ。

「しかし、わずかながら同情すべき点もある」

 と、センターの元幹部が重い口を開いた。

「今回の3人は生活保護受給業務の担当で、身元不明人の保護は未経験。そして当日は残業していたために突然担当することになった。次に、この界隈は昔から行政への依存度が高い地域ということ。福祉や医療関連の民間施設が少ないうえ行政と住民の距離が近く、行政はなんでも屋のような位置づけにある。それで、専門知識が身につかぬまま、ほかの業務に忙殺されることが多い」

 従来は、似たようなケースがあれば、

「行政が嘱託や臨時で雇った警察OBなどが事態収拾を手伝っていました。宿泊施設が健康上の理由で受け入れなかったが、そのようなときは警察OBなどに警察と掛け合ってもらっていた。しかし、財政難でそういった調整役を雇えなくなってしまったのです」

 そもそも身元の特定は警察が行うべきではないのか。むろん県職員の行動は論外だが、この騒動は老人福祉行政の厳しい現実も浮かび上がらせた。

週刊新潮 2020年2月20日号掲載

ワイド特集「仮面に告発」より

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