「柄本佑」に早くも名優の声 森繁久彌や渥美清と同じ道を歩む可能性

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すごいファミリー

 柄本の主演作が最も少なかったのは民放のドラマ。主演アイドルを重用したり、過去のデータを基に「数字(視聴率)を持っている、持っていない」などと考えたりするせいだろう。

 なので、過去の主演ドラマはNHKのみ。2011年の「生むと生まれるそれからのこと」と同年「無垢の島」と2016年「おかしな男~寅さん夜明け前 渥美清の青春~」の3作品だ。いずれも好評で、特に「おかしな男」は原作者で辛口の評論で知られる作家の小林信彦氏(87)も誉めた。

 ドラマ界において名優の評価が遅れるのは珍しいことではない。橋爪功も舞台では早くから認められていたが、ドラマで主演級、準主演級になったのは40代以降。NHK連続テレビ小説「青春家族」(NHK、1989)でヒロインの咲(清水美砂、49)の父・久司を演じたころからだ。1970年代までは悪役が多かった。

 もっとも、一度その俳優の主演ドラマが作られると、堰を切ったように主演作が撮られるのが民放ドラマの特徴。これからは柄本の主演作が作られるだろう。

 毎日映画コンクール授賞式では、父・明から演技のアドバイスは受けるのかとも司会者から尋ねられた。これに柄本は「それは、ありませんが、(僕は)昔から芝居や稽古は見ていましたよね」と返答。実際、明も角替和枝さんも筋金入りの演劇人。両親と接しているうち、自然と演技論が身に付いたのではないか。

 明は1967年、19歳の時に故・金子信雄さんが主宰していた劇団「マールイ」の演劇教室に入る。故・松田優作さんもいた。1974年には自由劇場へ。吉田日出子(76)、笹野高史(71)ら実力派がそろっていた。そして1976年には自分が座長となり、ベンガル(68)らと一緒に劇団東京乾電池を旗揚げ。後に高田純次(73)も参加した。

 劇団での明は俳優であるだけでなく、演出家でもある。シェークスピアの「真夏の夜の夢」(2010)やイヨネスコの「授業」(2011)、別役実の「招待されなかった客」(2012)など国内外の作品を手掛けている。その手腕への評価は高い。

 明の演技力も確かなのは知られている通り。1998年には「カンゾー先生」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を得た。2011年には紫綬褒章を受賞。派手な自己PRこそしないが偉大なる存在を、柄本は父に持つ。

 母・和枝さんもまた凄い人だった。NHK連続テレビ小説「花子とアン」(2014年)で、蓮子(仲間由紀恵、40)と結婚した龍一(中島歩、31)の母・浪子を演じるなど、ドラマではバイプレーヤー一筋だったが、演劇界では花形女優だった。

 和枝さんは1974年、映画「竜二」(1983)を遺して他界した故金子正次さんらと劇団東京ザットマンを旗揚げ。やがて、故・つかこうへいさんに買われ、「広島に原爆を落とす日」「サロメ」「ヒモのはなし」など数々のつかこうへい事務所公演に出演。1970年代から80年代にかけての演劇界で、絶大な人気を誇っていた、演劇界のアイドル的存在だった。

 それにとどまらない。和枝さんも東京乾電池で演出を手掛けていた。柄本は単に俳優、女優のジュニアであるのみならず、演出家の両親を持つ。その上、両親ともに掛け値なしの実力者なのだ。

 柄本は当初、俳優ではなく演出の道に進もうとしていた。映画監督だ。中学生のころから「妻は告白する」(1961)の増村保造監督や「幕末太陽傳」(1957)の川島雄三監督らの作品を見て、影響を受けていたというから渋い。

 だが、まだ高校生だった2003年、和枝さんのマネージャーの強い勧めで映画「美しい夏キリシマ」のオーディションを受ける。本人は映画の現場を見てみたいだけだったようだが、結果は見事に合格。戦争末期の精神的に追い詰められていた人々の物語で、柄本は主人公の中学生を熱演する。そして目の肥えた評論家らが選ぶキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞を受賞した。

 2世俳優、2世女優は大勢いるが、成功するとは限らないのは知られている通り。あるドラマプロデューサーから「成功する2世はせいぜい2、3割」と聞いたことがある。厳しい世界であるため、自分の主演作には息子も必ず出演させ、世に出そうとするベテラン俳優もいる。だが、柄本佑の場合は普通の2世俳優とは違う。というのも、明は息子を助けようとはしていないからだ。

 安藤サクラとの結婚により、俳優で映画監督の奥田瑛二(69)とエッセイストの安藤和津さん(71)が義父と義母に。映画監督の安藤桃子さん(37)は義姉である。ますます華麗なる一族になった。ちなみに実弟の柄本時生(30)も俳優だ。

 もっとも、奥田らが親族になったことも柄本には関係ないだろう。自分の力だけで名優の道を突き進んでいくに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年2月19日掲載

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