カラフルな大河「麒麟がくる」 実際はどんな色だったのか 京都「有名染師」に聞いた

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 昨年の「いだてん」と打って変わって、今年の大河ドラマ「麒麟がくる」が好調だ。なにせ大河ファン待望の戦国時代が舞台で、主人公は“敵は本能寺にあり!”でお馴染みの明智光秀(長谷川博己[42])となれば、当然だろう。さらに4K・8K撮影とあって、その映像も迫力がある。中でも目を引くのが衣装の派手さだ。光秀の着物はライムグリーンで、他にもピンク、ブルー、パープルと色とりどり。ところで、それって史実なの?

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 ネット上でも衣装の派手さは話題だが、その評価は賛否両論だ。

《大河ドラマ超久しぶりに見るけど麒麟が来る割とおもしろい。(色派手だけど昔の服派手だったって考証したらしいしいいんじゃないかな)》

《「麒麟がくる」、衣装がカラフルでしたね。実は戦国時代は日本の歴史上、最も衣服が派手だったのです。「麒麟がくる」の衣装担当は黒沢和子さん。黒沢明監督の娘さんです。このドラマ、衣装も楽しみです。》

《麒麟が来る。は今のところ見てますが、農民から町民の下級層まで衣装があり得ない派手さなのが凄く違和感を覚えます。》

《麒麟が来るに出てくる農民全部メチャメチャ派手な着物着てて目が痛い》

 時は戦国時代……あんな大昔にあの派手な着物はあり得ない、いやそんなことはない、と意見は真っ二つなのである。専門家はどう見ているのか。

 京都「染司よしおか」の染師・福田伝士氏(71)に聞いた。福田氏は工房の先代・吉岡幸雄氏(故人)とともに、日本の伝統色の再現に取り組んだ。その成果をまとめた「日本の色辞典」(紫紅社)には、赤、紫、青、緑、黄、茶、黒、白、金、銀といった様々な色が並んでいる。

福田:戦国時代でも、日本には様々な色がありました。それよりもずっと昔の聖徳太子の冠位12階も冠を色分けしていましたし、正倉院には様々な色の着物が残っています。

――そういえば、教科書で習ったような……。さらに時代を下った戦国時代ならば、あれくらい派手な色に染めることは可能だという。「ところが……」と福田氏は続ける。

福田:高貴な人が纏うものは絹やったでしょ。絹はいろんな色が染められるということは言えます。赤や紫などは特にそう、絹だから染まる色でした。一方で、庶民に高価な絹は手に入りにくい布ですから、彼らが着ていたのは麻。木綿が庶民にまで広まるのは江戸時代になってからですから、当時は麻を藍や茶に染めて使っていたと思います。麻は、それ以外には染まりにくいですから……。

――十二単に代表されるように、派手な衣装は高貴な人に限られたというわけだ。となれば、農民までカラフルな着物で畑仕事に精を出すのは、やはり少々やりすぎということか。そもそも、福田氏は、「麒麟がくる」をご覧になっているのだろうか。

福田:見てますよ。確かに庶民があんな派手な服着るのはおかしいわな……とは思いますけど、あれはテレビや思うてますから。あれは8Kで撮ったのでわざと見栄えがいいように、綺麗に見えるようにしてんねん、と聞いとるけどね。分かっててやってんちゃいます? 我々のような仕事をしている人間は、ちょっとは抵抗感じてますけど……まあ、ええか、と思うて。

目もチカチカ

――放送中の十兵衛(光秀)の着物をどう見ているだろうか。

福田:あのグリーンですな(笑)。派手やなあ、とは思うてます。今はまだ地味なほうがええんちゃうかと思いますけど。

――のちに信長の下で大出世して、一国一城の主になってからならともかく、まだ斎藤道三の家来で、上級武士とは言いがたい。

福田:うーん、美濃といえば、美濃紙は有名ですけどな。昔は紙を衣にしたこともありましたから、紙ならばグリーンも出しやすかったとは思います。

――とはいえ、紙製の着物には見えない。

福田:絹でしょうな。麻も染められないこともないけれど……。それも明智さんの衣は、紋だか柄を白抜きにしてますな。あれはいったん防染しなければなりません。蝋染めのようなもんですわ。当時はノリ染めがあったかどうか。防染して藍染めをして、それから黄色をかけて緑にするという技法だったと思います。当時はまだ1度でグリーンに染めることはできず、2色がけだったはずです。

――手の込んだ衣装なのである。京を本拠地とする松永久秀(吉田鋼太郎[61])がド派手な衣装だったのはまだしも、美濃で染めることは可能だったのだろうか。

福田:当時はすでに地方にも紺屋さんがありましたから、できないことはないと思います。黄色の染料はキハダなど木の皮から取ることもできます。ただ、やはり難しい色であるので、一般庶民が着ることはなかったでしょう。

――パリッとノリのきいた新品を着ているようにも見える。

福田:そうそう。それもおかしいとは思うてました。目もチカチカしてきよるし……8Kいうなら、地味な藍でも茶でも、もっと綺麗に見栄えよう映るんやないでしょうか。

 確かにそうだ。ではなぜNHKはこんな演出をしたのだろうか。時代考証家の山田順子氏は言う。

「NHKが言うのように、戦国時代の衣服は、一般視聴者が想像しているより、かなりカラフルだったことは、絵画史料などから想像できます。ただ、戦国時代の染料は、草木や鉱物などの自然染料を使っているため、同じ色でも抑え気味の発色です。それがドラマの衣裳では、予算や製作工程の問題で、現代の化学染料を使った生地を使っているため、発色がきついのです。さらに、すべての出演者、特にエキストラの衣裳をすべて新調する訳にはいかないので、従来の生成り色や土色の衣裳の中に、新調した明るい色の衣裳を混ぜているので、より目立つのでしょう」

 だからといって、福田氏が提案するように、藍や茶を綺麗に映すことについては、なかなか難しい。NHKにはトラウマがあるようなのだ。

「『平清盛』(12年放送)のときも、史実ではまだ染色技術が進んでいないということから、極端に発色を悪くしたため、視聴者から『暗い』『汚い』と言われました」(同・山田氏)

 だから今回はカラフルに、というわけだ。最近、十兵衛のグリーンは、着続けたせいか、ちょっとくすんできたようにも見える。今後は目も疲れないかも……。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月16日掲載

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