なんでオッサンは敬語を使えないのか(中川淳一郎)

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 なんでオッサンって敬語使えないんですかね? 一般化するのは無茶なのも分かっていますが、他の世代の人々や女性にはあまり感じません。自分もオッサンですが、もう少しベテランオッサンというか、年季の入った55歳~80歳ぐらいの方々のことです。私は24時間営業スーパーの隣に住んでいるため、冷蔵庫代わりのようにそこへ頻繁に行きますが、とにかくベテランオッサンの言葉遣いと態度がヒド過ぎる。

 この前見たのは、70歳ぐらいの「ワシ、日本仏頂面連盟渋谷支部長でーす! ワシ、次期支部長選でも勝ちたいから、日々のトレーニングに励んでまーす!」みたいな白髪・メガネのオッサンが、バングラデシュとかミャンマー出身と思しき女性店員に対して眉間に皺を寄せながら、蝿をシッシッと追い払うような、手首にスナップを利かせたジェスチャーをしています。

 すでにオッサンは会計を済ましていますし、お釣りももらっているのにこの面妖なるジェスチャーは何? 最近、仏頂面連盟で流行りの運動か何か……。なんて見ていると、店員もポカーンとしている。

 するとオッサンは舌打ちをして「あ・け・て!」と言うではありませんか。アァ、分かりました。レジ袋を店員に開いてもらいたいということなのですね。

 分かります分かります。40歳を過ぎると指が乾燥して、若き日々の、常にしっとり感が保たれた状態と違うから、レジ袋開ける時はペロッとなめなくちゃいけないし、老眼もひどいからなかなか袋を開けられませんもんね。

 その要求は理解できるものの、しかし言い方というものがあるでしょう。なーにが「あ・け・て!」ですか。あまつさえ、その意図に気付いた店員が開けてあげたら、パッとひったくって再び舌打ちをする。

 いやいや、開けてくれたんだったら「ありがとうございます」ですし、袋をカゴに入れようとしている店員から奪う必要もないでしょうよ。そもそも「あ・け・て!」ではなく、「すいません、開けてください」でしょうよ。その直後の店員の、怒りをこらえている様が実に切なくなりました。遠い国から働きに来て、「あ・け・て!」+舌打ちコンボ、自分だったら仕事辞めたくなります。

 飲食店でもこの手のオッサンは、店員に対して「取りあえずビール2~3本。焼き鳥10本ぐらい。あと、おススメはっ!」なんて言う。「はい、本日は広田湾の生ガキが入荷しております。プルンプルンでおいしいですよ」と店員がこたえると、「ああそう、じゃあそれ、2~3個!」となる。

 店内でオッサンは「自分よりも年下に敬語を使ったら男失格協会渋谷支部長」を目指しているかのような態度で、会計終了まで徹底的に敬語使用を避ける。さらには、店員を呼ぶ時は両手を顔の脇でパンパンと叩いたりする。

「さすがにそれは失礼ではないですか?」と以前指摘したところ、「店員なんて、池の鯉みたいなもんだよ。パンパン叩けば寄ってくるだろ?」なんて言うではありませんか。もはや敬語が使え、お礼が言えるだけで好印象を与えられる時代のようです。私はそれだけで若者から仕事をたくさんもらってます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年1月30日号掲載

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