東京五輪なのに柔道の畳は中国製… 競技用具に不安の声が

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五輪の舞台にこの器具?

 さらに、あまり問題にされていないが、東京五輪で使われる競技用具や器具についても不安の声が聞こえる。

 2018年秋、体操世界選手権(ドーハ)で使用された中国・泰山(タイシャン)製器具への批判が相次いだ。ゆかで3連覇を狙ったが2位に終わった白井健三選手が、「最初にゆかに立ったとき、『これは命に関わる』と思った。最後まで慣れなかった。このゆかでケガなく帰ってこられてよかったというのが感想。心を折られる器具だった」と語った。白井はゆかの状態から高難度の「シライ3」の演技をあきらめている。ケガでゆかを回避した内村航平選手も、「まあ、やりづらい。やってて気持ちよくない」と表現している。

 国際体操連盟は当時、東京2020でもこの器具を使いたい意向だったが、世界中から反対の声があがり、東京五輪では日本とヨーロッパのメーカーが共同で担当することに決まった。

 しかし泰山製の器具は他競技でも幅を利かせている。東京五輪では柔道の畳、レスリングのマット、テコンドーのマットが泰山製だ。柔道の畳について報道されると、「なぜ日本で開く五輪の畳が中国製なのか?」と疑問の声が上がった。

 組織委によれば、公認用具は基本的に各競技の国際組織であるIF(国際競技連盟)が指定し、組織委との協議で最終決定する。その採用や契約には三つの方法があるという。

「公認メーカーが複数ある場合は『競争入札』の方法があります。1社しか指定業者がなければ『特別契約』。IFとの間で無償提供の契約が交わされた場合には『ソールサプライヤー』となります」(高谷氏)

 東京五輪でソールサプライヤーになっている企業の一覧は組織委のホームページに掲載されている。これを見ると、柔道の競技用畳、レスリングのマットと練習用備品、テコンドーのマットはすべてソールサプライヤーとして、泰山が「独占的な」提供業者となっている。つまり五輪開催に必要な用具は泰山が無償で用意する。いくらタダとはいえ、なぜ柔道の畳に中国製が選ばれたのか。全日本柔道連盟に尋ねたが、「組織委員会へご確認いただければと思います」との返事。全柔連の畳の公認業者をホームページで確認すると、従来19社、泰山はその下、昨年5月27日に加えられている。

 体操関係者によれば「泰山製マットには本来スポーツ用具に使えない有害物質が使われていたため、国際体操連盟から注意を受けた経緯があります」。無償とはいえ、このようなメーカーの製品が積極的に採用される理由がどこにあるのか、説明が十分されているとは思えない。

 東京五輪は本当にスポーツを心底愛する者たちの粋を集めて運営されるのか? 企業や政治への配慮に支配される不安は拭えない。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。雑誌「ポパイ」「ナンバー」編集部を経て独立。テレビなどでコメンテーターとしても活躍。『子どもにスポーツをさせるな』『「野球」の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』など著書多数。

2020年1月31日掲載

特集「『東京五輪』に4つの破綻危機」より

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