「大津園児死傷事故」の迷走 やりたい放題の新立被告について被害者の弁護士が語る

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被告に振り回される法廷

 たとえ法廷に出席した全員が「キャスト」の放送内容を把握していたとしても、これを前提に裁判を進めるわけにはいかない。あくまでも証拠が必要だ。そこで裁判所は被告人質問を行うと決めた。

「新立被告が質問でインタビューの内容を認め、検察側が問題点を指摘するなどして休廷。常識的な時間を挟んでから――量刑に影響が出るかは未知数だとしても――今日は確実に判決が下るはずだと考えていました。ところが公判が始まると、これまでの陳述や主張などを、自分自身が真っ向から否定するような、想定外の発言を新立被告が連発、法廷は振り回されてしまいます」(同・石川弁護士)

 新立被告はABCの取材に応じた理由を「100%、自分が悪いというのは納得いかない部分があった」と説明。交通事故については「直進車にも過失がある」などとインタビューの主張を繰り返したほか、ストーカー事件についても「言いたいことがある」と争う姿勢を示した。

 裁判官は何度も休廷し、最終的には審理をやり直すことを決めた。裁判長は「不本意だが審理を続行せざるを得ない。今までにも十分、時間があったはずで、弁護士ときちんと話をして準備をしておいてほしい」と新立被告に注意を与えた。

 裁判の後、NHKの記者が新立被告に取材を申し込むが、「申し訳ありません。体調が悪いので」と足早に立ち去ったことが、「大津・園児死傷事故 争う姿勢に転じた新立被告 『体調が悪いので』と立ち去る」で報じられた。被告人の人となりが伝わってくる記事だと言えるだろう。

「被害者は、法廷で新立被告が好き勝手に喋るのを直視させられました。辛いお気持ちだったことは言うまでもありません。私も弁護士ですから、刑事被告人の利益は最大限に守られるべきだと深く理解しています。とはいえ、率直に申し上げますが、苛立った気持ちになった時間帯があったのは事実です。判決が下ると思っていたのに、途中から『これはどうなるんだ?』と不安になり、最後は審理のやり直しが決まりました。新立被告が判決を引き延ばそうとしたと推測されても仕方がありません。実際、被告が『現実を直視しない』傾向があると前に指摘しました。被告の性格が影響を与えたアクシデントだった可能性はあると思います」(同・石川弁護士)

 混乱する法廷で、被告の弁護士は戸惑った表情を浮かべていたという。それを見た石川弁護士は「被告がABCの取材に応じたことも、判決公判での一方的な主張も、自分の弁護士には全く相談していなかったんだろうな」と判断したという。

 裁判のやり直しを、時間の無駄と考える人は決して少なくない。特にネット上では憤りのコメントやツイートが主流を占めた。被害者も弁護団も怒り心頭だが、被告の理解不能な行動とは別に、長期間の法廷闘争を覚悟していたのは事実だという。なぜなら刑事裁判が終わっても、民事の損害賠償が待っているからだ。

「地裁の判決が出て、被告も検察側も控訴せず、地裁の判決で刑が確定したとしても、私たちにはまだまだやるべきことが多く残っています。例えば事故による被害者の被害内容が正式に確定しない限り、民事の損害賠償手続は終わりません。1人でも治療を続けておられる方がいれば、治療が完了するのを待つ必要があるのです。被害者の皆さんは何より真相究明を求めておられると前に申しました。その実現に向けて、少しでも弁護団として尽力しようと考えています」(同・石川弁護士)

 最後に石川弁護士は新立被告に対し「しっかりと自分に向き合い、自分の起こしたことを反省し、被害者の皆さんの心情を、ほんの少しだけでも理解してほしい」と訴えた。

 1人の法曹家の切実な願いは、果たして彼女に届くのだろうか?

週刊新潮WEB取材班

2020年1月30日掲載

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