「矢野」阪神 リリーフ陣に暗雲、新加入の外国人も未知数という“厳しすぎる現状”

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 昨年はシーズン終盤の追い上げで3位に滑り込み、クライマックスシリーズでもファイナルステージに進出した阪神。しかし、リーグ優勝は岡田彰布監督時代の2005年から14年間も遠ざかっている。切り札ともいえる矢野燿大を監督に迎えて2年目の今年。阪神の復権に向けてのポイント、キーマンを探ってみたい。

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 昨シーズン3位に躍進した原動力となったのは間違いなく投手力だ。チーム防御率3.46は12球団でもトップ。特に、リリーフ陣の踏ん張りは見事で、40試合以上に登板した7人の投手のうち岩崎優(1.01)、ジョンソン(1.38)、島本浩也(1.67)、藤川球児(1.77)の4人が防御率1点台をマークし、ドリス(2.11)は2点台前半と揃って好成績を収めた。彼らの踏ん張りがなければシーズン終盤の追い上げもなかっただろう。

 だが、今年はその自慢のリリーフ陣に暗雲が垂れ込めている。ジョンソン、ドリスの外国人投手二人がこのオフに退団となったのだ。ジョンソンはメジャー復帰ということで致し方ない部分もあったが、ドリスは残留を希望していたと伝えられていただけに、この選択には疑問が残る。昨年、この二人でマークした「7勝50ホールド19セーブ」という数字を埋めるのは簡単ではない。代役として期待されるのが、新加入のスアレスだ。ソフトバンク時代、過去3年間は故障で低迷していたものの、2016年には58試合に登板して26ホールドをマークしている。150キロ台後半のスピードがあり、今年で29歳とまだまだ若いだけに新天地での復活も十分に期待できるだろう。

 盤石だったリリーフとは対照的に先発投手陣は、西勇輝、青柳晃洋の二人以外はローテーションを固定することができなかった。そんな中で3番手の筆頭として期待したいのがプロ入り3年目の高橋遥人だ。昨年は18試合に先発して3勝9敗と大きく負け越しはしたものの、QS(クォリティスタート:先発して6回以上を投げて自責点3以内)は10試合あり、試合を作ることはできていた。また、奪三振率10.26という数字も先発投手としては見事である。気になるのが与死球0という数字。コントロールが武器である西の9、青柳の12という数字と比べても明らかに少なく、内角を強気に攻められていないことがよく分かる。このあたりが改善してくれば、一気に勝利数が増えてくることも期待できるだろう。

 そしてチーム最大の問題点が得点力不足だ。昨年のチーム打率.251はリーグ4位だが、94本塁打は中日に次ぐリーグ5位。そして得点数は538とリーグ最下位の数字に終わっている。1位だった巨人の663得点と比べると1試合あたり約1点少なかったことになる。チームトップの159安打、36盗塁をマークしたルーキーの近本光司がいなかったらと考えると、ゾッとするファンは少なくないだろう。クリーンアップは開幕時、糸井嘉男、大山悠輔、福留孝介という布陣だったが、糸井と福留は故障もあって1年通じての活躍はできず、シーズン終盤はマルテと糸原健斗の打順を上げるなどしてやりくりしたが、大きな改善には至らなかった。

 こうした状況を打開しようと、このオフにはメジャー通算92本塁打のボーアと昨年韓国で打点王に輝いたサンズを獲得している。彼らが期待通りの活躍を見せてくれれば言うことはないが、新外国人選手頼みの状況がどれだけ心許ないかは阪神ファンが一番よく分かっている。やはり糸井、福留に替わる日本人野手の台頭が望まれることになるが、候補として名前が挙がるのは中谷将大、江越大賀、陽川尚将といったもうそれほど若くはない“万年レギュラー候補”である。それ以外の本当の若手となると、二軍まで見ても長打が期待できそうな選手は見当たらない。過去のドラフト戦略、育成が機能してこなかったツケがここへ来て回ってきているというしかないだろう。

 得点力不足以外にも野手陣には課題はある。昨年のチーム失策数102はリーグワーストであり、1位中日の「45」の2倍以上となるエラーを記録しているのだ。近年では「エラーの数イコール守備力」ではないと言われているが、それにしてもこの数字は多すぎである。得点力を上げようとして攻撃的な布陣にしたくても、これだけ守備の数字が悪ければ難しいのが現状だろう。

 総括すると投手陣、野手陣とも新外国人が機能しなければ、昨年以上の結果を残すのは難しいと言える。ただ、希望があるとすれば、こんな状況でも即戦力のドラフトに走らずに、スケールの大きい高校生を多く指名したことである。彼らが今年の戦力になることは考えづらいが、チームを大きくしようという意図が見て取れた。この戦略が数年後に花を咲かせるためにも、矢野監督には昨年以上に思い切った改革を期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月26日掲載

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