テレビを見るほど肺がんになる!? 麻雀に死亡リスク!? 世界の最新「医学論文」を紐解く

ライフ 2020年1月2・9日号掲載

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世界の最新「医学論文」を紐解く――倉原優(1/2)

 帰宅後につい見てしまうテレビ、出勤時に結ぶネクタイ、認知症予防によいと聞いて始めた麻雀――。最新の研究によって、何気ない日常に潜むリスクが次々と明らかに。呼吸器内科医である倉原優氏が、身近にある「命の危機」を医学論文から読み解いていく。

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 私は、普段から国内外の医学論文を読んでいる内科医です。医学論文というのは、病気の診断や治療法について、新しい知見を世に知らしめるための研究を記したもの。しかし、世の中にはビックリするような医学論文が存在します。今回は、読者のみなさんの生活に密着した、オドロキの医学論文を紹介しましょう。

テレビを見るほど「肺がん」になる

 この数年、「テレビの視聴時間が長いと健康によくない」という知見が広まりつつあります。

 たとえば、「テレビの視聴時間が長いほど肺がんのリスクが高くなる」という北海道大学の医学論文があります(1)。5万4258人の男女をアンケートで「1日2時間未満」、「1日2~4時間」、「1日4時間以上」の3つに分類したところ、1日4時間以上テレビを視聴する男性は、1日2時間未満の人と比較して肺がんを発症するリスクが1・36倍高いという結果が得られたのです。同じ北海道大学の別の論文では、1日5時間以上テレビを見ている女性は、1日2時間未満テレビを見ている女性よりも卵巣がんになるリスクが約2倍高かったと報告されています(2)。

 テレビとがんに何の関係があるの?と思われる読者も多いでしょう。実は、テレビ視聴時間が長いと座っている時間が長くなるのです。「座っている時間はどのくらいですか?」と聞いても正確な回答が得られないので、医学論文の世界では、相関のよいテレビ視聴時間がよく用いられているのです。

 アメリカの研究によると、日本人は世界一座っている時間が長いそうです(3)。世界20カ国の平均が約5時間だったのに対して、なんと日本人は約7時間でした。1年間で100日以上座っている計算になります!

 座っている時間が長いと、医学的に何が問題なのでしょうか? これは、裏を返せば、運動時間が少ないということです。多くのがんは生活習慣病の延長にあります。そのため、運動不足によってがんにかかるリスクが上昇してしまう可能性があるのです。また、長時間膝を曲げてジッとしていると、血液がドロドロになって固まります。それが心血管疾患を誘発する可能性もあります。

 座っている時間が長いと健康に害をもたらすため、“Sitting is the new smoking(座ることは新しい喫煙だ)”という言葉も生まれました。これは、オーストラリアのシドニー大学の報告がきっかけです(4)。この研究は、45歳以上のオーストラリア人の座っている時間と死亡リスクの関係を調べたものです。1日の座っている時間が0~4時間の人と比べると、11時間以上座っている人では死亡リスクが男性で1・32倍、女性で1・62倍になるという結果でした。

 世界各地から報告された、複数のこういった論文を集めて解析したところ、日中座っている時間が長いと、がん全体の死亡リスクを17%、心血管疾患による死亡リスクを18%上昇させるという結果が得られました(5)。この結論は世界的に有名な医学雑誌に掲載されたもので、信頼度が高い内容です。

 ただでさえ座っている時間が長い日本人は注意しなければいけません。パソコン仕事をしている人は、1時間に1回くらい立ってストレッチをするよう心がけてください。

 ちなみに、特定の臓器のがんが危険というわけではなく、先ほどの肺がんをはじめ、大腸がん、前立腺がんなどありとあらゆるがんの死亡リスクが上昇することが分かっています。普段からタバコを吸っているような人が、運動もせずに家でダラダラ過ごすのは、自らがんのリスクを加速度的に大きくしているということです。

 家でぐうたら寝ている夫に向かって「そんなにテレビばっかり見ていると、あんた死ぬわよ!」と一喝する妻も出てくるかもしれませんね。

ネクタイが危ない!

 ダラダラ過ごしてばかりでメタボ体型になると妻にどやされるので、出勤のときくらい歩こうとスーツ姿で家を出たあなた。しかし、その首に巻いたネクタイ、健康によくないというデータがあります。

 空気を入れて圧力を変えられる疑似ネクタイを作製し、きつくネクタイを締めた状態とゆるく締めた状態の2パターンで首の血液の流れを測定したイギリスの医学論文があります(6)。なぜこのように空気を入れる手法を用いたかというと、ネクタイをきつく締める・ゆるく締めるというのは、客観的信頼性に欠けます。そのため、数値(圧力)で測定できる科学的な方法を選んだのです。結果、ネクタイをきつく締めた状態では、脳血流が低下していることが分かりました。軽く首を絞められた状態と言えます。動脈硬化がある人だと、ネクタイが脳梗塞の引き金になるかもしれません。

 ビジネス関連の医学論文をもう1つ紹介しましょう。どういった職種がメタボになりやすいかを調べた慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの報告です(7)。これによれば、最もメタボのリスクが高いのは運輸業だそうです。鉄道、倉庫などの従業員も含まれますが、代表的な職業はトラックの運転手ですね。運輸業に就いている男性は、メタボになりやすいだけでなく、歩行時間が少なく、喫煙率が高いことも示されました。長距離トラックの運転手ともなると、坐位をとる時間がどうしても他職種より長くなります。長い間、座り続けると、死亡リスクが高まることは前述の通りです。しかも、運転中口さびしいためタバコを吸いやすく、ごはんもジャンクフードで済ませてしまいがちです。そのため、より健康に気を遣う必要がある職種と言えます。

ボケない「麻雀」に死亡リスク

「ボケないように」と健康マージャンを始めたあなた。しかし、本当に大丈夫でしょうか? 脳年齢が若くなり、認知症予防にもなるということで、健康マージャンは全国的に普及しています。しかし、先ほどのがんのリスクと同じように、長時間座っていることが病気のリスクになるかもしれません。

 左足の痛みを訴えたとある中国人女性に起こった悲劇が、有名な医学雑誌に掲載されました(8)。来院時、彼女の左足はパンパンに腫れていました。よくよく聞いてみると、連続8時間におよぶマージャンに興じた後の受診だったそうで、水分もほとんど摂っていなかったらしい。そう、彼女の足の血液はドロドロになり、いつの間にかとてつもなく大きな血栓ができてしまい、深部静脈血栓症という状態になり病院に運ばれたのです。一命はとりとめましたが、医学論文では、「長時間のマージャンは危ない」と警告しています。健康マージャンは、できれば1ゲームごとに休憩をはさみつつ、ほどほどにプレイするのがよいですね。

(2)へつづく

参考文献表
1) Cancer Causes Control. 2013 Aug; 24 (8): 1547-53.
2) Cancer Causes Control. 2018 Feb; 29 (2): 213-19.
3) Am J Prev Med. 2011 Aug; 41 (2): 228-35.
4) Arch Intern Med. 2012 Mar 26; 172 (6): 494-500.
5) Ann Intern Med. 2015 Jan 20; 162 (2): 123-32.
6) Stroke Res Treat. 2010 Nov 8; 2011: 692595.
7) Keio J Med. 2019 Sep 25; 68 (3): 54-67.
8) Lancet. 2010 Jun 26; 375 (9733): 2214.

倉原優(くらはらゆう)
2006年滋賀医科大学卒業。国立病院機構近畿中央呼吸器センター・呼吸器内科医師。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医。論文の和訳やエッセイを多数執筆しており、著書に『本当にあった医学論文』(中外医学社)などがある。

特集「身近なところに命の危機! 世界の最新『医学論文』を紐解く」より