嵐1位、紅白「歌手別視聴率」の知られざる算出方法 スポーツ紙の涙ぐましい努力とは

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

嫌がる芸能プロ

 年が明けると各スポーツ紙は、分刻み視聴率データの入手に走る。これはビデオリサーチが、3が日明けの最初の平日に出す。今年は1月6日(月)だった。

 テータ入手は簡単な作業ではない。分刻みの視聴率データをビデオリサーチが提供しているのは、加盟社(テレビ局、広告代理店等)だけだからである。このため各スポーツ紙は、系列の民放などに頼み込みデータを譲ってもらう。

「ベテラン放送記者が懇意にしている民放幹部から、分刻みの視聴率データをいただくケースもあります。これがないと、歌手別視聴率が出せません」(同・スポーツ紙芸能記者)

 加盟社以外にデータが渡ることについて、ビデオリサーチはいい顔をしない。だが、年に一度のことなので、目をつぶっているようだ。

 そして、手に入れた分刻み視聴率データと、あらかじめ紅白ウォッチャーが作っておいた歌手別の登場時間を照合させ、歌手別視聴率を出すのだ。

 このように歌手別視聴率には手間暇かかっているわけだが、各歌手が所属する芸能プロダクションの一部には、歌手別視聴率がスポーツ紙に掲載されることを嫌がるところもある。特に演歌系の歌手が所属するプロダクションがそうだ。

 歌手別視聴率が一覧化されると、どうしても演歌系の歌手が下位になりがち。となると、演歌系の歌手は地位が低い、あるいは人気がないと誤解されかねないからだ。

「歌手別視聴率の掲載は1980年代から始まりましたが、1990年代には一部の芸能プロダクションが掲載に難色を示し始めました。『うちはいつも低いから、やめてほしい』と。でも、芸能プロダクションがスポーツ紙の編集に口を出す権限などありませんので、なんとか続いているという状況です」(同・スポーツ紙芸能記者)

 各スポーツ紙は、日ごろ付き合いのある芸能プロダクションの渋い顔にも負けずに、歌手別視聴率を出しているのだ。

 苦労はまだある。どの歌手が視聴率トップだったかを報じたいのに、拍子抜けする場面で最高視聴率が記録されてしまった時だ。そうなると、目を引く見出しが作りにくい。トーク場面で最高視聴率が記録されたりすると、目も当てられない。

 実は今年も、最高視聴率は23時41分に記録された42・3%であり、嵐の登場した場面ではなかった。最高視聴率が記録されたのは勝利チームの発表直前で、画面には出場アーティストたちのダイジェスト映像が流れていた。これでは見出しが作りにくい……。

 録画機器がアナログだった1990年代までは、もっと苦労があった。紅白ウォッチャーが、生放送時に書いた記録を後から確認しようとしても、当時のビデオテープは正確な時間の確認には不向きだったからだ。このため、計6紙あるスポーツ紙の歌手別視聴率が、微妙に違うこともあった。

 今でも「●時×分30秒」といった中途半端な時間で一人の歌手の登場が終わり、間髪入れずに次の歌手が歌い始めると、各スポーツ紙で判断が分かれる。データは分刻みでしか出ないからだ。どのスポーツ紙も自社で基準を設け、分刻みデータを扱っている。

 紅白の歌手別視聴率は、スポーツ紙の努力の結晶なのである。「それほど手間がかかるのなら、各紙が手分けしてやればいいのでは?」という声も上がるだろうが、記者クラブというぬるま湯に浸かり、情報カルテルを結びがちな一般紙と違って、スポーツ紙は他社との合同作業を嫌うのだ。

 さすがは日々、芸能スクープ合戦を繰り広げているスポーツ紙である。

鈴木文彦/ライター

週刊新潮WEB取材班

2020年1月8日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。