「炎上を呼ぶ謝罪」は教訓の宝庫 世間に許されない“6種類の謝罪”

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「社長、限界でしょ」

 もうひとつ、危機管理の関係者の間で「伝説」と語り継がれているのが、03年の石原プロモーションによる謝罪です。ドラマ「西部警察2003」の撮影中に、出演俳優がハンドル操作を誤って、見学していたファンの列に突っ込んでしまった。渡哲也社長(当時)は、負傷したファンの入院先に駆けつけ土下座して謝罪。その後の会見で渡社長は「大切なファンを傷つけてしまった以上、私たちにドラマを作る資格はありません」と制作中止を発表しました。言い訳を一切せず、心に響く謝罪を重ね、贖罪の仕方も見事という他ありません。

 つまり、謝罪そのものは不名誉なことですし、そういう事態になることは極力避けるべきなのですが、一方で上手に乗り切ればプラスに転化することは十分可能なのです。そのためにも、企業の方々には特に謝罪の前の段階での戦略が求められます。弊社で、会見に臨む直前の社長に必ず伝える呪文をお教えしましょう。

「社長、限界でしょ」

 別に、からかっている訳ではなく、これは会見で述べるべき事柄の順番を間違えないようにし、言い忘れを防ぐための呪文です。つまり「謝意の表明・調査結果の報告・原因分析の明示・改善案の提示・処分案の発表」の頭の文字をつなげて「社長、限界でしょ」。

 なぜこれが必要かと言えば、会見は往々にして思った通りに進みません。記者がいきなり、「社長! いつから知ってたんですか?」などと聞いてくると、ついそれに答えてしまいます。しかし、それでは一番大切な「謝意の表明」が飛んでしまう。そのせいで下手をすると「謝罪なし」などと書かれかねません。このような事態を避けるために、正しい順番を守ることが必要なのです。

 これは決して、企業のトップや経営者だけに限った話ではありません。会社員がミスを犯した場合でも同様でしょう。クダクダと理由や事情を説明する人に対して、損害を被った側、迷惑をかけられた側は「言い訳ばかりして、ごまかそうとしている」という印象を持つに違いありません。

 まずは謝る。そのうえで現状を端的に伝え、原因を明らかにする。そして、事態をどうリカバーするか、また自らにどのような罰を科すかを話す。このような順序で話せば、「こいつはミスをしたが、信用できる」と思ってもらえる可能性は高いのです。損害の規模にもよりますが、むしろその後の対応いかんでは評価を高めることもあるでしょう。何らかのミスをした時には、慌てるのが人情ですが、どうか「社長、限界でしょ」という呪文を思い出して頂ければ幸いです。

 興味をお持ちになられたら、ぜひ拙著を手に取ってみてください。

田中優介(たなかゆうすけ)
1987年、東京生まれ。明治大学法学部卒業後、セイコーウォッチ株式会社を経て、2014年、株式会社リスク・ヘッジ入社。企業の危機管理コンサルティングに従事、現在は同社代表取締役社長。岐阜女子大学特任准教授も務める。今月、『地雷を踏むな』(新潮新書)を刊行。

週刊新潮 2019年12月26日号掲載

特別読物「危機管理のプロが2019年を総括 『炎上を呼ぶ謝罪』は教訓の宝庫」より

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