見なくなった「開運グッズ」の広告(中川淳一郎)

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 これまで日曜日の朝8時30分といえば、「サンデーモーニング」(TBS系)で張本勲氏が登場するスポーツコーナー開始の7~10分前というワクワクの時間だったのですが、最近はこの7~10分がBSフジの「ガチャムク」を観る時間になっています。

 ガチャピン(5歳)とムック(5歳)の冠番組なのですが、これがあまりにも呑気な番組ですっかり気に入ってしまいました。秋の食材について「松茸が嫌い」だの「サンマが好き」だの議論したり、「街の中で聞こえる音で踊ろう」的なコーナーではトラックの「バックします、ピーピーピー」という音に合わせて、「ピーピーピー」のところで腕を3回転させる、という踊りを紹介したり、ガチャピンとムックと東京ヤクルトの「つば九郎」が「僕らの時代」と題し、3人で喋る。

 フジテレビ系「ボクらの時代」のパロディなのですが、話す内容が無茶苦茶。つば九郎に試合後何をするかを聞いたら「麻布で酒を飲む」という話になり、よく一緒に行く相手はバレンティン選手で、彼のことをつば九郎は潰してしまったこともある。どれだけ酒を飲んだのかを聞いたら「東京ドーム2杯分」なんて答える。

 この無茶苦茶な展開からのハリーこと張本勲氏になだれ込むのがすっかり気に入ってしまいましたが、謎なのが「ガチャムク」で流れるCMなんですよ。子供向け番組なのだから、オモチャやお菓子のCMがふさわしいのに、なぜか出てくるのがサプリメントです。コンドロイチンは膝に良いだのゴマエキスが体に良い、みたいなことをやっている。しかも登場するCMキャラは前期高齢者女性。

 おいおい、最近の子供は関節痛に悩んでいるのかよ、と思うも、恐らくBSなのでナショナルクライアントのCMがバンバン入るというわけではないのでしょう。以前、某BS局のPRの仕事をした時も彼らはそうボヤいていました。最近は雑誌でも同様の状況なだけに、事情はなんとなく分かります。

 というか、広告も色々と変わったなァ……と思うことが多いです。ほんの15年ぐらい前まで、雑誌で「開運グッズ」の広告が花盛りだったじゃないですか。「波動石」だの「タイガーアイ」「黒龍」の広告がドーンと見開きで、いかに幸せになったかを誇示する。

「欲望を叶える最終兵器 ジュオウ(珠王)」には宝くじが2億円当たった「福田尚樹さん(27歳/無職)」が登場。どうみてもイケメンとはいえない男性がセクシーな女性を膝の上に乗せ「いま一番お気に入りの彼女」とか言って胸を揉んでいます。福田さんが「男の憧れのハーレムを満喫!!『もっと近こう寄れ、なんてね』」と女性4人と一緒にプールサイドにいる写真も掲載しています。

 私も1万4800円ぐらいで「ジュオウ」を買って効果を確かめてみました。1週間で発生した良かった出来事は鰻重をおごってもらったことだけです。一方、広告に登場した福田さんがその後富士通のCMに出ているのを見ました。やはりすごい効果があったのですね。

 とはいっても「効果98%」とか謳うあの広告、現在のコンプラ重視のご時世、目にすることがなくなり寂しいです。HPも消えていました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年12月12日号掲載

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