【中川大志と福士蒼汰の見分け方】半眼が多彩な方が中川、胡散臭い方が福士

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 主人公が自分の気持ちを言語化せず、行動にすら移さず、うじうじと屁理屈こねくり回して自滅するのだろうと思っていたら、予想外の爽快感で驚いた。「G線上のあなたと私」である。

 婚約破棄され、仕事も失い、茫然自失と思いきや、そんなに落ち込みもしない自分に驚いている主人公を波瑠が演じる。ショッピングモールでたまたま聴いたバイオリンの音色に心を掴まれ、音楽教室へ通うことに。そこで出会ったのが専業主婦の松下由樹と、大学生の中川大志だ。一生、接点がなかったはずの3人が、バイオリンを通して新しい人間関係を構築していく。

 何が爽快かというと、とにかく全員が想像以上に心情や直感を吐露する。それを今言ったら普通は気まずくなるよね、あるいは恥ずかしいよね、という心の声をがんがん吐く。自己開示も相互理解も迅速で清々しい。弱みも肚の内もペロンと見せる。嘘ついたり、隠したり、自分を大きく見せようとしない潔さがある。

 波瑠は、不運だが不憫でも不幸でもない。案外図太いし、思ったことをさらっと口にする。悪意はないが、それが逆に面倒臭いタイプだ。たぶん友達が少ないのもそこに起因。そんな波瑠に対して中川は直球の毒舌で返す。若さは残酷で手厳しい(が、案外まっとうで老成)。でも、その関係は時間と距離をそれなりに置いて、愛おしさへと熟していく。

 松下は「同じフィールドにはいない」が、波瑠と中川を温かく見守りつつ、時折茶化したり、着火したり、鎮火させたりもする。自身は夫の隠し事やら意地悪でワガママな義母の介護やら反抗期の娘やらで、それどころじゃない時期も経る。別次元・別世界の住人だが、その距離感がちょうどいい。3人の関係が実に適温だし、演技も見どころである。

 波瑠は、共感も嫌悪感も抱かれない、という新たなヒロイン像を開拓。強い・媚びない・群れないの古いタイプのヒロインではなく、精神的ダメージを与えられてサンドバッグ状態でも、意外と明るく図太く生きる。顔が美しすぎると悲劇系をあてがわれがちだが、不満も愚痴も自己嫌悪も明瞭に言語化する役柄で、新境地に至った気もするんだよね。

 中川は半眼がちで感情の多様性を表現。泥酔も悲しみも怒りも諦めも、うまいなあと思った。福士蒼汰と見分けがつかないと嘆く年輩の方には「半眼が多彩なほうが中川、胡散臭いほうが福士」と教えてあげて。

 松下は全国の良き妻・良き嫁・良き母を卒業したい女性たちから労(ねぎら)いの声を集めるであろう苦悩を体現。最善で最高のトリオだなぁ。

 実は他の人物も案外本音を吐くところが面白い。波瑠の恋敵となる桜井ユキも、ただのカマトトでは終わらないし、波瑠の母・池谷のぶえも娘を突き放す発言が意外と多い。波瑠の元婚約者・森岡龍も罪悪感フリーで無神経。「誰からも気にしてもらえず、入れこめるものが見つけられないのは一番キツイ」などと、モテや不幸に嫉妬して自己憐憫(れんびん)に持ち込もうとする波瑠を、決して甘やかさない脚本と設定。そういうとこ、好き。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年12月12日号掲載

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