【ルポ・重婚】彼女が男とその妻との奇妙な同居生活の末に妊娠出産した理由

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私は最強の弱者、底辺から世の中をぶちやぶる

「塵も積もれば山になるっていうか、例えば子どもが高熱を出した時に、彼と連絡が取れなくて、LINEも既読にならなくて、っていうようなことが積み重なったことで、『この人と家族になるのは、ちょっと嫌だな』って思っちゃったんですよね。今は家族というより、共同生活者です。お父さんという風に扱いはしているけど、夫ではない。

 結婚と子育てって分けたほうがいいなって思うんですよ。だって、分けて考えずに、配偶者にすっかり頼り切っていると、『(夫が)死んだ後にどうするの?』ってなるじゃないですか。それよりも、子育てしてる者同士が、助け合いで生きたほうがいいし、きちんと自治力を蓄えておかないともって思う。自治力っていうのは具体的には、いざという時の避難所を知っておくとか、自分の街の商店街で買い物をし、顔を合わせると挨拶をしたりして、きちんと地域に居場所を作るっていうことなんですが。

 あとは、人とのつながりも大事ですよね。私は、家族が多いんです……ここにいる家族だけじゃない家族がいっぱいいるって思ってる。今でも彼の元奥さんの家族と交流していて、この前もうちに遊びに来ましたし、彼のお父さんやお母さんも、息子が入院したときは、お手伝いに来てもらったり。

 そういうふうに、いろんな人とのつながりを多く作って、誰かひとりに固執しないほうが楽ですよね。特定のお父さんっていうよりも、みんなお父さん、お母さんっていう感覚で、子どもは社会の中で育ててもらったほうがいい。これからの時代は、もっともっと日本は生きづらくなると思うんですが、そういう時に必要なのって、人とのつながりだと思うんです」

 そうやって、“夫だけに頼らない子育て”を探る一方で、自立の方法も探っているという。

「子どもの父親は、子どもへの影響もあるから、あんまり大々的に広告して何かをするのはやめたほうがいいって言ってて。けど、私はもともと仕事がしたい人間なので、何かできる範囲のことを考えつつ、仕事を増やしていきたいって思ってます。

 例えば、人にものを教える仕事だったら、うちの諸事情をあらかじめ伝えて、キャンセルになる場合がありますって了承を得ておけるので、この状況でも実現可能かなって。これまでずっとやってきたのも、風俗で働いている女の子に、もっと面白く、上手に仕事をする方法を教えることですし」

 性産業に築いてきた自分のバックボーンを活かしつつ、アイディア力を勝負に、現状の自分にフィットした仕事を作り上げるとともに、自らの自立だけではなく、これまで力を注いできた社会活動も再開したいと考えているという。

「最近、周りの女の子たちも、子どもを生み始めてるんですよ。それで、それぞれの悩みが出てきてる。なので、今は性産業に関わった親の会をやりたいなって。裏の顔同士で安心感を共有しながら、英気を養って、表に出ていくっていうのも大事だなって思っています。

 私って、最強の弱者だと思ってるんですよ。子どもがいてシングルで、社会的にも下に見られるんだろうけど、底辺から世の中をぶちやぶるというか。たぶん逆境が好き。なので、育休を抜けても、仕事の復帰を決めれば、自分で生きていけるって思ってます」

 水嶋さんが作ろうとしているそういった場が性産業で働いていたことを、ママ友には言えずに孤独に陥りがちな女性たちの助けになることは間違いないし、水嶋さんのような女性が存在すること自体が「いま、性産業で働いているけど、子どもを生みたい」と望んでいる女性たちに安心感を与えることになるのではないだろうか。

大泉りか(おおいずみ・りか)
1977年東京生まれ。2004年『FUCK ME TENDER』(講談社刊)を上梓してデビュー。官能小説家、ラノベ作家、漫画原作者として活躍する一方で、スポーツ新聞やウェブサイトなどで、女性向けに性愛と生き方、子育て、男性向けに女心をレクチャーするコラムも多く手掛ける。『もっとモテたいあなたに 女はこんな男に惚れる』(イースト・プレス 文庫ぎんが堂)他著書多数。2017年に第1子を出産。以後育児エッセイも手掛け、2019年には育児に悩む親をテーマとしたトークイベント『親であること、毒になること』を主催。

2019年12月10日掲載

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