吉永小百合と在日朝鮮人の帰還事業 拉致問題とも無縁ではない「キューポラのある街」

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帰国した在日朝鮮人を人質

「北朝鮮人権映画祭」では、『キューポラのある街』の次作となる『未成年 続・キューポラのある街』(1965年公開)も上映される。

「映画『未成年』の冒頭は、SLが走っているシーンで、それにかぶさるように、北朝鮮に帰国した吉永演じるジュンの友達、ヨシエからの手紙が朗読されています。『北朝鮮で働きながら充実した生活を送っています。ジュン、貴方はどうしているの』という内容です。1作目よりも2作目のほうが、北朝鮮への礼賛度が強くなっています。2作目では、ジュンが北朝鮮に行くことを躊躇している菅井きんさんが演じる日本人妻を、北朝鮮へ帰国するように説得するシーンがあります。日本人妻は『貧乏暮らしをしても、あたしはやっぱり日本に住んでいたいんだよ』と言うのですが、ジュンは『おばちゃん、向こうへ行ったほうがいい。きっとまた会えるわ!』と。結局この日本人妻は、北朝鮮へ渡ります」(先の荒木氏)

『キューポラのある街』の舞台となった川口市は、元々在日朝鮮人が多いという。

「川口の鋳物工場には、在日朝鮮人がたくさん働いていました。拉致被害者の田口八重子さんや特定失踪者の藤田進さんなど、川口市は多数の拉致被害者・特定失踪者の出身地でもあります。これは決して偶然ではなく、帰国者がいたからこそ、帰国した家族を人質にして、日本に残った家族をいわゆる“土台人”として工作活動のために運用することができたのでしょう。ある意味、帰還事業と拉致問題は切り離せるものではありません。その中には、在日の拉致被害者もいたはずです」(同)

 帰還事業は、金日成(キム・イルソン)国家主席の肝いりで始まった。その目的はなんだったのか。

「ひとつは、朝鮮戦争で労働力が不足した、その穴埋めです。もうひとつは、日本人が北朝鮮で暮らすことで、発展する社会主義ということを国際的にアピールすることでした。朝鮮総連は、北朝鮮を“地上の楽園”と宣伝し、帰国者には、日本にある金や家財道具は北朝鮮に持っていく必要はないと言って、総連に寄付させているのです。ところが、いざ北朝鮮へ渡ってみると、そこは地獄だった。反抗する者は、強制収容所送りにされました。朝鮮人の夫と北朝鮮へ渡った日本人妻は、夫と死別して一人になったケースも多かったようですが、言葉もわからず、途方に暮れたに違いありません」(同)

 吉永にも帰還事業について今どんな思いなのか、聞いてみたいものだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月9日掲載

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