MVP、ゴールデングラブ賞の選出方法に不満の声 G坂本よりD京田の方が上手い!?

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 プロ野球の表彰選手に関する選出方法が論議を呼んでいる。11月26日に行われた「NPB AWARDS」でセパ両リーグの最優秀選手(MVP)や最優秀新人賞(新人王)などが表彰されたが、受賞者以外の少数意見で投票結果に挙がった選手名には首を傾げてしまうものが少なくなかった。

 セ・リーグが坂本勇人(巨人)、パ・リーグは森友哉(埼玉西武)が選ばれたMVPでは、今季4勝8ホールドの大竹寛(巨人)に1票が投じられた。村上宗隆(東京ヤクルト)と近本光司(阪神)の史上稀に見るハイレベルの争いとなった新人王には木浪聖也(阪神)と床田寛樹(広島)に1票ずつ、パ・リーグでは今季3勝4敗の榊原翼(オリックス)や52試合出場で打率.220の佐藤龍世(埼玉西武)の名前もあった。ベストナインでも、各ポジションに1票のみの選手が並ぶ中で最も不可解だったのが、今季は故障でわずか38試合の出場に終わった柳田悠岐(福岡ソフトバンク)への投票があった。

 少数票に限らず、先に行われた守備の名手が選ばれるゴールデングラブ賞では、セ・リーグの遊撃手部門にリーグ最少失策数だった京田陽太(中日)ではなく、坂本が選ばれたことで、各方面から不満の声が続出した。このような現象は今年に限らず、有識者やファンの間で、選出方法に関して疑問の声が年々、強くなっている。

 現在、表彰選手は記者投票によって選出されている。投票要件は、日本新聞協会の運動記者クラブに加盟する新聞社、通信社、放送局で5年以上の取材経験を持つプロ野球担当記者となっている。プロ野球担当として、10年以上のキャリアを持つベテラン記者は言う。

「記者投票では選手名の誤記、及び無記名投票は無効とされる決まりになっています。それぞれの記者は、規則に則して厳格に1票を投じているはずですが、様々な思惑や事情があるのも事実です。成績だけでなく、印象度という点もあるし、記者個人の思い入れやしがらみもある。今年のセ・リーグの新人王争いは、言ってみれば東京と大阪の運動記者クラブの代理戦争のような意味合いもあったと思います。個人的には10代で36本塁打、96打点を記録した村上がダントツだと思いましたが、おそらく関西の記者がほとんど近本に投票したことで、39票差という接戦になったのだと思います」

 個人成績だけでなく、チームの成績も当然、重視する必要はあるだろう。1票のみの選手に関しても「投票した記者には、必ず何か確固とした根拠があるはず」と前出のベテラン記者は言うが、長年、プロ野球の取材を続けているスポーツライターは疑問も投げかける。

「雑誌媒体や、最近で言えばインターネットのサイトなどは運動記者クラブに加盟していないため、そこで記事を書いているライターは、何年仕事をしても投票権はもちろん、年間パスさえもらえないことがほとんどです。世間的にはかなり知名度があるジャーナリストでも、それは同じです。5年以上の取材経験ということですが、近年は新聞記者、特にスポーツ紙の中堅記者などは、右肩下がりの業界に不安を感じて、優秀な人ほどネット媒体などに転職したり、独立して自ら起業したりする傾向があります。そのため、現場にいる記者が以前より劣化している傾向は否めない感はあります」

 記者の劣化が、批判を浴びるような投票を生む。前出のスポーツライターはこう続ける。

「スポーツ紙などの担当記者は、1、2年から長くても5年ぐらいで担当球団が変わるようですが、その間は担当以外の選手についてはあまりよく知らず、試合も見ていないという記者が少なくない。また、若い記者では、とにかく選手と仲良くなることばかりに躍起になっている人もよく見かけます。逆に東京と大阪以外の地方球団では、地元の一般紙やスポーツ紙でも長年、同じ球団を担当し続けて、現場の主(ぬし)になっているような古参の記者もいます。そういう記者が、選手へのアピールや個人的な付き合いなどで、1票を投じている可能性もあるのではないでしょうか。今年のゴールデングラブ賞では、ドーピングで出場停止になった広島のバティスタにも1票が入っており、さすがにこれは記者の見識を疑わざるを得ません」

 現在、表彰選手の選出方法では沢村賞のみが、受賞経験者などの選考委員会の審議によって行われている。沢村賞も、かつては賞を制定した読売新聞社が東京運動記者クラブ部長会に選考を委嘱していたが、1981年に投手三部門でタイトルを獲得した江川卓(巨人)ではなく、西本聖(同)が選出されたことが物議を呼び、記者投票をやめて現在の形になった経緯がある。

 時代の変化や近年の世論を考えると、MVPをはじめとする各賞の選出方法も見直す時期に来ているのかもしれない。記者投票という形を残すなら、せめて誰がどの選手に投票したのか、NPBのサイトなどで一般に向けて公表する。そうなれば、少なくともウケ狙いのような投票に対する抑制にはなるはずだ。

 あるいは沢村賞のように、各賞の受賞経験者などによる選考委員会を導入する。現場の声、プロの目を反映するという意味で、ゴールデングラブ賞などでは、オールスターで行われている「選手間投票」という手も選択肢のひとつだろう。

 個人タイトルでもそうだが、1位の選手は半永久的に資料などに名前が残ることになるが、2位の選手を記憶している人は、当人以外はほとんどいなくなる。心ない少数派の投票が、受賞者の決定を左右する可能性がないとは言い切れない。選手の人生すら左右しかない選考を、現状の形で記者のみに任せてもいいものなのか。再考すべき余地は十分にあるはずだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月4日掲載

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