「年収1000万円」家庭が世間のイメージほど「裕福」ではない現実

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ドリンクバーは頼むけど、デザートをつけるのは躊躇する

 当日、取材場所に現れた澤田恵里菜さん(仮名・45歳 家族構成:夫45歳、長女10歳)は、洒落たデザイントップスに細身のパンツという上品ないでたちをしていた。手入れの行き届いた黒髪は艶やかで美しく、あらかじめ“夫の年収が1000万円”という情報を知っているせいもあって、どことなく余裕のある雰囲気を感じる。

 恵里菜さんの夫はIT系の専門職で、年収は1200万円に加え、自社株の配当がある。恵里菜さん自身はたまに自宅でボディワークのワークショップなどを主催し、年収70万円ほどの稼ぎがあるという。そんな彼女にも「ご自身の生活は、裕福だと思いますか?」と尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「自分の体験からくる肌感覚では、貧乏ではないけど、特別に裕福でもないですね。カツカツではないけど、好きなことを好きなだけできるほどではなく、例えて言うなら、暑い日にエアコンをつけるのに『電気代が……』と思ってためらうこともないし、ファミレスに行ってドリンクバーは気軽に頼めるけど、デザートをつけるのは躊躇するくらい」

「ドリンクバーは気軽に頼めるけど、デザートをつけるのは躊躇する」という恵里菜さんの感覚にはとても共感できる。わたしもドリンクバーは頼むことがあるけれど、デザートを頼むことは滅多にない。担当編集者のTさん(未婚女性、アラフォー)も、「わかる、わかる。デザートはちょっと尻込みしちゃいますよね」と相槌を打っていた。

 だが、“夫の年収が1000万円”であっても、このような庶民的な生活を送っていることが普通なのか、それとも、恵里菜さんが、あまり無駄遣いをしないタイプなのだろうか。

「わたしは地方の出身なんですけど、実家は普通以下、裕福か貧乏かでいったら貧乏でしたね。外食に行くこともほとんどなかったですし。ただ、大学では音楽を専攻したので、そういう面ではお金をかけてもらってはいました。それでも『絶対に公立にしなさい』って言われましたけど……本当は行きたい私立の学校があったんですが」

 当時、私立ならば学費が年間200万円ほどかかったという。対して公立は50万円程度。その差は歴然だ。親の希望通りに公立大学に進んだ恵里菜さんは、卒業後、コンサートやレストラン、結婚式の讃美歌の歌い手などをしている最中、夫となる男性と出会い、遠距離恋愛の末に同棲を経て結婚。ところが結婚式の直前に夫の海外赴任が決まり、一緒に渡航することになった。

「そこから10年くらいは海外生活でした。最初はヨーロッパで、その次は北米。夫の年収が1000万を超えたのも海外に赴任した辺りからです。手当がいろいろついた結果です。ただ、慣れない環境で生活するとなると、なんだかんだ物入りになってしまうんですよ。

 国によって電圧が違うので、電化製品を一度揃えても、別の国に引っ越すときは全部買い直し。家具を全部自分で揃えるケースもありますし、国によっては家賃が東京よりも高いこともあって。あと、基本的にスーパーの食材なんかは、すべて大きいんです。牛乳パックも大きいし、野菜も大きな袋に入っているから、なかなか使いきれなくて」

 海外生活だからこそ、余計なコストがかさむこと、また「いま行かないと、日本に戻ったらなかなか行けなくなる」と、現地の近隣諸国へ旅行する機会が多くあったこともあって、帰国時にはほとんど貯金がない状態だった。

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