ダルビッシュが「中日投手査定」に異議 まるで使い捨て…リリーフの評価を見直すべき“これだけの理由”

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 プロ野球も契約更改が話題となる季節になったが、一人の中継ぎ投手の査定が議論を呼んでいる。中日の祖父江大輔だ。今月12日、1回目の交渉に臨んだが本人と球団の評価に大きな隔たりがあるとして、態度を保留した。プロ入り6年間で4度目となる40試合登板を記録したことで、祖父江はアップを期待していたようだが、球団側の評価はダウンだったと見られている。

 このニュースに対してダルビッシュ有(カブス)が、球団の評価が低すぎるとツイートして、自身のYouTubeで祖父江を擁護するなど、大きな話題となっている。昔から先発投手に比べてリリーフ投手の評価は低いと言われているが、果たして本当にそうなのか。祖父江投手以外にも何人かの選手をピックアップして検証してみたい。

先発投手の金額が高い

 統計学の見地からデータを客観的に分析する手法「セイバーメトリクス」が浸透したことによって選手の評価基準は変化していると言われているが、先発投手とリリーフ投手を比較することはなかなか難しい。そこで最も分かりやすい勝利数、ホールド数、セーブ数を基準にして、まずは考えてみたいと思う。過去5年間のセパ合わせた最多勝、最多ホールド、最多セーブの平均数を出すと以下のようになった

最多勝:15.5勝
最多ホールドポイント:38.8HP
最多セーブ:39.5セーブ

 これを基準にホールドポイント数、セーブ数を勝利数換算し、1ホールドポイントは0.40勝、1セーブは0.39勝の価値と考えてみたい。そして、祖父江の昨年までのプロ入り後6年間の通算成績は263試合に登板して61ホールドポイント、3セーブである。先ほどの勝利数換算に当てはめると先発投手の25勝と同じという結果となる。祖父江投手と同じ年に入団し、先発として同等程度の勝利数をマークしている選手を探してみると、近いところで以下の2人が見つかった。

九里亜蓮(広島):通算29勝(うち先発23勝) 推定年俸:6200万円
二木康太(ロッテ):通算25勝(うち先発25勝) 推定年俸:4300万円

 今年の祖父江の推定年俸は2900万円(一部の報道では4千万円だったと報じられた)と言われており、確かに上記の2人よりも低い。また入団時の年俸は祖父江と九里が1200万円、二木が500万円ということを考えても、二木の上がり幅は祖父江よりもかなり大きいことになる。ちなみに、今年の九里は先発で4勝と中継ぎで4勝の合計8勝、二木は先発で7勝をマークしているが、ダウンが提示されることは考えづらい。これだけを見ても、やはり祖父江の評価は少し低いと言えるのではないだろうか。

 祖父江だけを例にしてもサンプルが少ないため、各球団の先発、中継ぎ、抑えで最も年俸の高い選手の今季年俸を改めて調べてみると以下のようになった。

【西武】
先発:内海哲也 今季年俸1億円
中継ぎ:武隈祥太 今季年俸6350万円
抑え:増田達至 今季年俸1億円

【ソフトバンク】
先発:千賀滉大 今季年俸1億6千万円
中継ぎ:岩嵜翔 今季年俸9500万円
抑え:森唯斗 今季年俸2億8千万円

【楽天】
先発:岸孝之 今季年俸3億円
中継ぎ:福山博之 今季年俸8千万円
抑え:松井裕樹 今季年俸1億1千万円

【ロッテ】
先発:涌井秀章 今季年俸2億円
中継ぎ:大谷智久 今季年俸8400万円
抑え:益田直也 今季年俸1億3千万円

【日本ハム】
先発:金子弌大 今季年俸1億5千万円
中継ぎ:宮西尚生 今季年俸2億5千万円
抑え:秋吉亮 今季年俸6800万円

【オリックス】
先発:山岡泰輔 今季年俸4500万円
中継ぎ:吉田一将 今季年俸3900万円
抑え:増井浩俊 今季年俸3億円

【巨人】
先発:菅野智之 今季年俸6億5千万円
中継ぎ:澤村拓一 今季年俸1億2150万円
抑え:中川皓太 今季年俸1900万円

【DeNA】
先発:井納翔一 今季年俸7200万円
中継ぎ:三上朋也 今季年俸1億500万円
抑え:山崎康晃 今季年俸2億5千万円

【阪神】
先発:西勇輝 今季年俸2億5千万円
中継ぎ:桑原謙太朗 今季年俸6千万円
抑え:藤川球児 今季年俸1億4千万円

【広島】
先発:大瀬良大地 今季年俸1億4500万円
中継ぎ:今村猛 今季年俸8700万円
抑え:中崎翔太 今季年俸1億6千万円

【中日】
先発:吉見一起 今季年俸9千万円
中継ぎ:谷元圭介 今季年俸8500万円
抑え:田島慎二 今季年俸7千万円

【ヤクルト】
先発:石川雅規 今季年俸9500万円
中継ぎ:近藤一樹 今季年俸6千万円
抑え:石山泰稚 今季年俸1億円

 この顔ぶれと年俸を見てどう思うだろうか。やはり圧倒的に先発投手の金額が高い傾向にあることが分かるだろう。内海、涌井、金子、吉見、石川などは全盛期を過ぎ、成績が落ちているにもかかわらずこれだけの高額年俸が支払われている。一方、中継ぎで1億円を超えているのは宮西、澤村、三上の3人だけ。澤村は先発と抑えの経験があり、三上もプロ入り1年目に21セーブをマークしているように抑えの経験があることを考えると、純粋な中継ぎと言えるのは宮西だけである。歴代最多となる通算370HPをマークしている宮西が、やっと超一流と言われる年俸になっていることを考えると、やはり中継ぎ投手の評価は低いと言わざるを得ないだろう。

 今シーズン、規定投球回数をクリアしたのはセ・リーグは9人、パ・リーグはわずか6人であり、年々中継ぎの重要性は増している。そんな重要なポジションの選手を妥当に評価せず、使い捨てのように扱ってきたツケがどの球団にも回ってきていると言えるだろう。今回の祖父江の件がきっかけとなり、各球団が中継ぎ投手の評価の見直しをすることを強く望みたい。

※年俸はスポーツ紙などが報道した推定年俸。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月16日掲載

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