日本vs.キルギス 「退屈で凡庸な90分」で思い出したゲーリー・リネカーの名言

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ホームでも足が攣っていたキルギス代表

 冒頭にも書いたように、退屈な90分であり、日本が手にしたのは勝点3という結果だけだった。内容的に見るべきものはほとんどなかった。

 ただしその原因は、ピッチコンディションの影響も大きい。ボールを保持して相手を動かしながら、人数を割いて攻め上がり、バイタルエリアでは1タッチ、2タッチのパスで崩そうとしても、パスミスがあれば一気にカウンターのピンチになる。

 このため遠藤や柴崎岳(27)らは高い位置に顔を出すことは自重してリスク管理していた。

 80年代の駆け出し記者のとき、日本人プロ第1号の奥寺康彦さん(67)を、西ドイツのブレーメンでプレーしていた頃に取材したことがある。当時、奥寺さんに「プロとアマの違いは何ですか」と、いま思えばあまりに愚問で恥ずかしいかぎりだが、奥寺さんは「1人1人の差は小さいけれど、それが10人になると大きな差になる」と教えてくれた。

 キルギスの左アタッカー、アリクロフは巧みなフェイントで酒井宏樹(29)を翻弄し、決定的なクロスを入れた。右サイドではビクトル・マイヤー(29)が攻撃の起点となり、何本ものクロスを上げていた。キルギスにも目を見張る選手がいた。だからこそ今年1月のアジアカップに出場できたのだろう。

 しかし、チームの総合力、経験値で日本は上回った。粘土層のピッチは足に負担がかかる。試合終盤はホームであるキルギスの選手が足を攣っていたが、日本の選手は誰も足を攣っていなかった。

 かつて90年代前半のドイツは、イタリアW杯で優勝し、96年のEURO(欧州選手権)でも優勝した。その時にイングランドの名FWで解説者だったゲーリー・リネカー(58)は「サッカーは11人でするスポーツだが、最後に勝つのはいつもドイツだ」という明言を残した。

 フェアな相手にはフェアに戦い、ラフなチームとはラフな戦いで応じ、つまらないサッカーでも最後は勝利を収めるドイツのしたたかさを表現した言葉だが、タジキスタン戦とキルギス戦の森保ジャパンの戦い方にも通じるものがあるのではないだろうか。

 もちろん2次予選という格下相手だから当てはまるイメージであることは十分に承知している。そこで進化を問われるのは、例え内容が乏しくても最終予選で当たることが予想される韓国やオーストラリア、イランから無失点で勝利を収められるかどうかだ。その試金石となるのが国内組で臨む、12月に釜山で開催されるE-1選手権である。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月16日掲載

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