日テレがジャニーズ事務所のためにひと悶着起こす脱力系ドラマ「ブラック校則」

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 高校1年生の時、制服に関する全校会議があった。一応制服はあるが、厳しい規定はない。自由に着崩す人も多いし、教師も無関心。ところが、熱い先輩方が「制服は廃止すべきか否か」とクラス代表を招集し、会議に。正直、無駄な時間だと思ったので、「着たい人は着る、着たくない人は着ない、個人の自由でいいんじゃないでしょうか」的な発言をしたら袋叩きに遭った。確か、制服廃止派と制服維持派がいて、結局決着もつかず。31年前の話である。

 その制服はダサかった。ブレザーにジャンパースカート(略してジャンスカ)。スカート丈を短くしようものなら「ちんちくりん」、長ければ長いで「もっさり」。どうしようもない致命的なダサさだった。夏は中学時代のスカートを引っ張り出して穿いたりもした(ジャンスカは暑いから)。冬は冬で、バイク通学時に寒いからジャージを着ていた。つまり主張した通り、個人の自由で3年間を過ごした。

 そんなことをつらつらと思い出したのは「ブラック校則」のおかげ。髪の色、長さ、スタイル、スカートの丈に至るまで、とにかく細かい校則がある高校が舞台。朝は教師が校門に立ち、生徒たちの服装や髪形をいちいちネチネチチェックする。地毛が茶色い女子(モトーラ世理奈)は教師から「黒く染めてくるか、地毛証明書を提出しろ。そうでなければ学校に来るな」と追い払われる始末。その校則の理不尽さに疑問を抱いたのが、主役の佐藤勝利だ。クラスでは目立たず、地味な男子だが、厳しすぎる校則がどうも腑に落ちず。親友でお調子者の高橋海人に乗せられて、ひそかに抵抗運動を始めるという物語だ。

 このふたりが海っぺりでダベる。どうでもいい話や噂話、ボケたりツッコんだりの漫才風味……あれ……なんだろう……「セトウツミ」感が半端ないと思っていたら、脚本が此元和津也だった。「セトウツミ」は男子高校生の日常を描く会話劇。描くというか、ただただダベる。時々人は増えるが、特別なことは何ひとつ起こらない。池松壮亮&菅田将暉の映画版、高杉真宙(まひろ)&葉山奨之(しょうの)のドラマ版があって、どっちも好きだった。

 だが、今回は特別なことが起こる。日テレがジャニーズ事務所のために起こす。Huluもフル活用で起こす。ひと悶着やひと波乱が起きてくれないと困るわけだ。それが厳しすぎる校則へのレジスタンスである。

 世理奈への理不尽な対応を機に、佐藤と高橋は校則にささやかな異議を唱えていく。世理奈自身も黙っちゃいない。生徒会長で優等生の箭内夢菜(やないゆめな)を巻き込んで、教師たちのえげつない贔屓を立証。柔和な表情とは裏腹にサイコパスみたいな顔をした数学教師・吉田靖直も掃除のおばさんウルフも味方になって、学校に改革をもたらすのだろう。

 映画版に向けた壮大な前説ドラマなので、要素もてんこもり。なぜか光石研の微妙なラップ、世理奈の母・坂井真紀の無駄に強い色気、教師・片山友希の片思い。「3年A組」的な説教臭さはない。むしろ軽妙で脱力系。だから面白い。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年11月7日号掲載

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