「サザエさん」放送50周年で迎える苦境 磯野家も少子高齢化に抗えないのか

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「サザエさん」(フジテレビ、日曜午後6時半)は「国民的アニメ番組」と称され続けてきたが、その看板が怪しくなりつつある。放送開始から50周年。2010年代前半までは20%超えの視聴率が当たり前だったものの、最近は一桁台も珍しくないからだ。順風満帆だった磯野家も時代の変化には抗えないのか。

 1969年10月に始まった「サザエさん」は2013年10月までの合計平均視聴率が20%を軽く突破していた(関東地区、ビデオリサーチ調べ、以下同)。1979年9月16日放送では番組最高値の39・4%を記録。1970年代から80年代は30%台を連発しており、まさに国民的アニメ番組だった。

 ところが2015年には視聴率が15%を割り込むようになった。そして2018年の年間平均値は11・9%にとどまった。

 今年も浮上していない。例えば10月13日放送分は9・8%と一桁。8月4日放送分から10月20日放送分の平均値は10・4%である。

「サザエさん」の視聴率が断トツだったころ、フジは午後7時台の視聴率争いを楽に戦えた。「サザエさん」を見ていた視聴者がそのまま午後7時台の番組を見てくれる可能性が低くなかったからだ。視聴者の中には頻繁にチャンネルを変えぬ人が少なくない。

 その図式はデパートの戦略「シャワー効果」と似ている。デパートは最上階や屋上でバーゲンやイベントをよくやるが、それは帰りに途中階に寄ってもらうためでもある。最上階や屋上に魅力があると、階下の売り場は心強い。

「サザエさん」の視聴率が下がったこともあって、近年、フジの午後7時台は苦戦中だ。10月20日放送の「ジャンクSPORTS」は「ラグビーW杯準々決勝 日本対南アフリカ」と重なってしまったとはいえ、3・5%。同時間帯で最下位だった。

 なぜ、「サザエさん」は往年の絶大なパワーを失ったのか? まず、どんな国民的番組であろうが、耐用年数があるということだろう。時代によって視聴者の「笑いの質」や「涙のツボ」は変化するからだ。例えば、1960年代のコントで現代人から笑いを取るのは難しいだろうし、浪花節で泣く人も今や少数派に違いない、

 1966年5月に始まった日本テレビの国民番組「笑点」(日曜午後5時半)も最近は勢いが衰えた。長らく15~20%の高視聴率を誇り、2016年5月29日放送では現在の時間帯になってから最高値の28・1%を記録したが、今年9月15日放送分では9・8%と一桁台に転落している。求められている笑いの質が変化していることが一因だろう。

「サザエさん」の場合も「時代錯誤」という声があるのは知られている通り。だが、ここで疑問が生じる。そもそも「サザエさん」はいつの時代を描いているのか? 「アニメなんだから硬いこと言いっこなし」との指摘もありそうだが、時代との折り合いがつかなくなったことも失速の原因と思えるので、簡単に考察してみたい。

 故・長谷川町子さんによる原作漫画は終戦間もない1946年4月から福岡県の地方新聞に連載された。では、原作の時代が舞台かというと、違うだろう。磯野家の生活水準、カツオの学校生活を眺めると、少なくとも高度経済成長期(1954~1973年)以降が舞台であると推察される。

 アニメの放送が開始された1969年が舞台かというと、これも違うはず。磯野家の固定電話は懐かしの黒電話であるものの、波平は人から借りて携帯電話を手にしたことがあるからだ。携帯電話サービスの開始は1987年なので、磯野家の面々が生きている時代はそれ以降ということになる。

 磯野家の茶の間にあるテレビはワイド画面(16:9)ではなく、スタンダード画面(4:3)だ。となると、2011年にアナログから完全移行した地デジには対応していない。時代設定は1987年から2011年の間ということになるのだろうか。

 もっとも、ややこしいことに、「サザエさん」には時事ネタが盛り込まれたりする。2012年に開業した東京スカイツリーが描かれたこともある。番組内から得られる情報だけで、いつの時代か読み取るのは無理だ。

 ただし、時代設定の謎は、このほど解けた。磯野家が生きているのは1999(平成11)年である。なぜ、そう断言できるかというと、フジが放送開始から50周年を記念し、スペシャルドラマ「磯野家の人々~20年後のサザエさん~」をつくったからだ。11月24日に放送される。ドラマの舞台は現代。となると、アニメは今から20年前の1999年の世界ということになる。アニメは50年前に始まっており、当時から登場人物たちは年齢を重ねていないが、その辺には目を瞑るしかない。

 ドラマのほうはサザエを天海祐希(52)、マスオを西島秀俊(48)、波平を伊武雅刀(70)、フネを市毛良枝(69)がそれぞれ演じる。

 カツオ(濱田岳、31)は31歳に。野球選手、漫画家などを夢見てきたが、そのたびに挫折し、今は商店街の洋食店でシェフをしている。ただし、経営はうまくいってない。29歳のワカメ(松岡茉優、24)はアパレル関係のデザイナーになっているものの、なかなか自分のデザインが採用されずに悩んでいる。

 タラオ(成田凌、25)は23歳で就職活動中。だが、やりたいことが見つからず、面接では玉砕の日々を送っている。タラオには17歳になる妹もいる。ヒトデ(桜田ひより、16)だ。ヒトデとはシュールな名前だが、原作者の長谷川さんが1954年、「サザエさん一家の未来予想図」という1コマ漫画の中で、タラオの妹として描いていたという。

 アニメと違い、ドラマはカツオとワカメの苦悩などリアリズムに満ちているようだ。では、アニメのほうも現実路線に転換すれば視聴率が再び上昇するかというと、そう簡単にはいかないだろう。

 例えば、波平が定年と雇用延長問題に悩み、カツオとワカメが通う小学校ではイジメが問題化していたら、それを日曜日の夕方に見たいと思う視聴者は少ないはずだ。現実路線にすると、どうしても暗い話になりがちだろう。

 また、「サザエさん」の視聴率を下げた大きな要因は少子高齢化に違いない。親子で見るのに格好の番組だが、鍵を握る子供が激減してしまった。2017年の総人口約1億2671万人のうち、年少人口(0~14歳)は約1559万人。人口比12・3%に過ぎない。番組開始翌年の1970年には年少人口が約2515万人もいて、その人口比は24・0%に達していた。

 ゴールデンタイムで放送されていたテレビ朝日の「クレヨンしんちゃん」(土曜時4時半)と「ドラえもん」(土曜午後5時)の放送枠が、10月から移動となり、物議を醸した。これも背景にあるのは少子高齢化にほかならない。このまま少子化が進んでしまうと、アニメはCS放送やケーブルテレビでしか見られないという時代になってしまうかも知れない。今ですらスポンサーが付きにくくなっている。

「サザエさん」の場合、このまま視聴率が下降線を辿ると、時代設定の変更や、テレ朝と同じく放送枠の移動が検討されるのではないか。

 放送枠移動の場合、同局「ワンピース」(日曜午前9時半)と同じく、日曜日の午前中などが考えられるだろう。ただし、国民的アニメだけに簡単ではないはずだ。テーマソングはニッポンの日曜夕方のBGMと化している。

 視聴率が自然と上向けば一番いいのだろうが、国家的難問である少子化が絡んでいるので、自然とそうなる可能性は低いだろう。

 フジは何らかの手を打つのか。それとも「局の顔」とも言える番組だけに、何があろうが現行の形を守り抜くのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月3日掲載

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