日本画の巨匠・千住博氏が「2億3千万円賠償命令」に反論

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飼い犬に手

 この判決が9月27日、下され、冒頭のように、千住氏側に約2億3千万円の支払いが命じられたのだ。

「裁判所は、『合意書』は事実上の『専売契約』である、と認定しました。また、千住さんの他の画廊への売買も、合意書が定める『諸事情』に当たらないと判断したのです」(同)

 千住氏本人が反論する。

「日本の美術業界には、一人の画家を画商たちが全体で支えるシステムがあります。画家が特定の画商のみと専属契約を結ぶ文化は原則的に存在しません。(だから合意書も)間違っても独占や専属という意味を持たないように精査して加筆修正し、(ギャラリーの会長も)それを一読して承知しましたので、僕もサインしたわけです。ところが14年も経った2016年になり、突然これは独占契約で、契約違反をした、と言われ、問答無用で訴えてきました。この実情や文書の作成過程を無視した判決にはとても違和感があります」

 要は、判決は合意書の文言が重視され、その経緯や事情が不当に軽んじられている、と述べるのだ。

 その是非は今後、上級審で争われることになりそうだが、訴訟で浮き彫りになったのは双方の溝の深さである。

 画廊側は、千住氏サイドから「センチュリーを要求されて購入した」「母親の看護をやらされた」など、「タカられた」と言わんばかりの主張を展開。対して、千住氏はこれを否定し、「飼い犬に手を噛まれたような気持ち」と反論。

 さらに先のジャーナリストも言う。

「別の仕事をしているギャラリーの会長の息子が、千住さんに同情して味方につき、陳述書を提出。そこには“食事会に呼ばれなかったことに腹を立てて(ギャラリーは)訴訟を起こした”“人の道に外れたことをした”と記されていました」

 互いの感情の絡まり合いが垣間見えるのだ。

「僕は彼らを信じてここまで取引をしてきました」

 と千住氏は憤る。

 実は、ギャラリーの会長は脱税で有罪判決を受け、収監された過去を持つが、千住氏はこれについても、

「その間も社員や子どもたちに罪はないと思い、周囲からの猛反対があっても取引を続けていました。どうして(ギャラリーが)このような仕打ちをするのか、怒りとかではなく、人間としてとても悲しい思いです」

 他方のホワイトストーンは「お答えできません」との回答。

「画廊は作家と手を取り合ってお互いの価値を高めていくもの。訴訟まで拗れることは非常に稀なケースです」(美術ライター)

 それもこれも、巨匠の存在の大きさゆえの「椿事」だったのであろう。

週刊新潮 2019年10月17日号掲載

ワイド特集「三千世界は謎だらけ! 新聞テレビでは分からない『秋の十大椿事』」より

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