「刑事ドラマ」は絶好調でもテレ朝がそんなに喜べない理由 キーワードは「リーチ力」

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スポンサーの視点

 試しに、放送局の異なる同ジャンルの夏ドラマで、トータルリーチが最低となる組合せをしてみよう(図3)。

 テレ朝の『刑事7人』『科捜研の女』と、テレビ東京の『警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~』の3本で見ると、トータルリーチは13%しかなくなる。各ドラマの接触率が9%・7%・5%と低いうえに、視聴者層の重複が多く、広がりを持たないのである。

 やはり同一ジャンルのドラマを複数編成するのは、結果としてリーチ力の減退につながるのだ。

 逆に、GP帯ドラマの中で、トータルリサーチが最高となる組合せにするとどうなるか。フジ『監察医 朝顔』(接触率17%)・TBS『ノーサイド・ゲーム』(同15%)・日テレ『あなたの番です』(同15%)の3ドラマだと、トータルリーチは31%に達するのだ。先の3本の2・4倍のリーチ力だ。

 個別の接触率が高く、かつ異なるジャンルのため、それぞれのドラマだけを見た人の比率が高い。結果としてより多くの人に届くようになる。

 実はスポンサーは、このリーチ力を重視している。商品情報が、異なる視聴者層により広く伝わることが重要だからだ。そのためにもスポンサーは、単一の放送局に出稿するようなことはしない。

 新製品のキャンペーンでCMを出稿する際、指標となるのがGRP(延べ視聴率)である。視聴率1%の番組にテレビCMを1本流すことを、1GRPと表す。例えば3000GRPで8割の国民に認知されれば及第点だが、同じ量の広告を出しても5割にも届かなければ、キャンペーンとしては成功と言えない。

 リーチ力の弱い局へCM出稿した場合を考えてみよう。一定量のCMを放送しても、同じ視聴者に同じCMが何度も見られることになってしまう。CMは、一定回数以上、露出しても、効果は発揮しなくなるばかりか、むしろ視聴者から反発される可能性もある。

 今年度に入り、キー各局は広告営業で苦労している。特に番組を提供するタイムではなく、一定期間だけCM枠を購入するスポットCMの営業が、前年同期比で大きく下がっている状況だ。

 中でもテレ朝は、この春クールの広告収入が6%以上、下がった。さらに夏クールも、8月が5・3%マイナス、9月も大苦戦で、特にスポットが厳しい市況と発表している。

 実は同局の視聴率は、堅調に推移している。今年度上期(4~9月)も、GP帯が前年同期比で0・3%ほど上昇した。にも拘わらず、視聴率の多寡に影響されるはずのスポットCMが厳しい。

 スポンサーは近年、テレビCMの広告効果に厳しい視線を向けている。リーチを精査し始めた広告主も少なくないようだ。

 明らかに視聴率だけで番組を評価する時代は終わろうとしている。リーチ力など、個別番組や編成の総合力も広告主はチェックしている。

 テレビ局は、これを前提に番組制作と編成を考えなければならない時代に入っている。

メディア遊民(めでぃあゆうみん)
メディアアナリスト。テレビ局で長年番組制作や経営戦略などに携わった後、独立して“テレビ×デジタル”の分野でコンサルティングなどを行っている。群れるのを嫌い、座右の銘は「Independent」。番組愛は人一倍強いが、既得権益にしがみつく姿勢は嫌い。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月18日掲載

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