佐藤仁美、鈴木砂羽、伊藤かずえ…ホリプロ女優陣の凄みが味わえる隙間産業的戦略ドラマ

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 強きを助け、弱きを挫(くじ)く。都合の悪いこと・モノ・人はすべて隠蔽。そんな体質が蔓延(はびこ)るのは、架空のW県警察。警視正以上が集まる上層部は、通称・円卓会議と呼ばれる宴席で、高級中華料理をぺっちゃくちゃ食いながら、言いたい放題で無責任に指示を飛ばすだけ。保身の権化で、自分たちのメンツと体裁のみを優先し、人を駒としか見ていない。こんな腐った上層部を変えたいという思いを胸に秘めて、ひとりの女が立ち向かうのが「W県警の悲劇」だ。

 主人公は監察官の芦名星。W県警の腐敗の根幹が「男性中心の体質」にあることから、優秀な女性警察官の育成も密かに目論む。が、毎回女性警察官の内部調査と面談を任され、それぞれが抱える心の闇や澱(おり)、門外不出の秘密に触れていく。

 最近の私は何かにつけて、BSテレ東がお気に入りだ。隙間産業的戦略が好物なのだが、贔屓目にも程がある。

 これ、ホリプロが制作しとるから、ほぼほぼホリプロキャスティング。番組を宣伝するポスターはホリプロ(系列も含む)女優の満艦飾。「女ドラマ、やりまっせ!」の気合は、象徴的かつベタな赤の色使いでイヤというほど伝わってくるし、うまい女優ばかりなので文句は1ミリもない。ただし、そこに少しだけ鼻白む自分もいるので、絵だけはホリプロ臭を薄めてみました。結果、おじさん満艦飾に。

 あ、このおじさんたちはなんなのかっつうと、W県警の上層部の面々です。円卓に並んだ中華料理をぺちゃぺちゃと食いながら、芦名に無茶ぶりをする人々だ。権力志向に男尊女卑、生理的嫌悪の集合体をこの5人の名優がきっちり体現する。だんだんメニューがしょぼくなったのは気のせいか。ネクタイ使い回しも気のせいか。そんな細かいところはどうでもよくて、とにかくムカつくのよ、このおじさんたちが。劇中に必須の唾棄すべき敵に最適である。

 このおじさんたちに心の底で最大級の軽蔑を送りつけながらも、芦名は奥歯食いしばって出世して、この円卓会議にデビュー。女性初のメンバーとなるわけだ。

 で、中身。毎回、女性警察官たちが日々遭遇している苦労や我慢、辛酸も描きつつ、事件や不祥事への関与を疑われる。芦名が事件の背景を探っていくと、予想外の結末が待っているので、ちっとも気が抜けない。「女をなめたらいかんぜよ」と胸のすくオチもあれば、すっかりミスリードされちゃって驚愕&納得の結末も。

 たぶんこれはテレ東で再放送するだろうから、ネタばらしはしないでおこう。佐藤仁美と優希美青の回で思わず膝を打ったし、佐津川愛美と谷村美月の回では溜飲が下がった。床嶋佳子と戸田菜穂の回は静謐な心情描写に唸ったし、肉欲派の鈴木砂羽の回は「姐さん、そうこなくっちゃ!」と思わず声が出た。最終回の伊藤かずえは数十年変わらぬ安定感……と思いきや初回登場の仁美が、まさかの!!

 ということで、最終回まで観るために、原稿に書くのが遅くなっちゃった。女優陣の凄みはぜひ再放送で味わってほしい。ずぶずぶとハマるわよ、オンナ沼に。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年10月10日号掲載

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