18年ぶり新作長編『十二国記』の楽しみ方【後編・全10タイトル、どこから読むか?】

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18年ぶり新作長編登場『十二国記』の楽しみ方――大森望(2/2)

〈十二国〉を舞台にしたファンタジー小説《十二国記》シリーズの新作が、この10月と11月に2冊ずつ刊行される。“続き”がじつに18年ぶりに出るとあって、発売前から予約殺到の大反響。その魅力はどこにあるのか。特徴と設定を解説した前回に続き、翻訳家・書評家の大森望氏が、楽しみ方をご紹介する。

 ***

 刊行予定の新作も含め、シリーズ全10タイトルを、新潮文庫で付されたEpisode番号順に並べてみよう(2ケタ数字は初刊年、※印は短編集を示す)。

(0)『魔性の子』'91
(1)『月の影 影の海』'92
(2)『風の海 迷宮の岸』'93
(3)『東の海神(わだつみ) 西の滄海』'94
(4)『風の万里 黎明の空』'94
(5)『丕緒(ひしょ)の鳥』'13※
(6)『図南(となん)の翼』'96
(7)『華胥(かしょ)の幽夢(ゆめ)』'01※
(8)『黄昏(たそがれ)の岸 曉の天(そら)』'01
(9)『白銀(しろがね)の墟(おか) 玄(くろ)の月』'19

 シリーズの刊行歴をおさらいしておくと、現代日本を舞台にしたプロローグというかパイロット版にあたる(0)が新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズから刊行されたのは、いまから28年前。この時から、カバーイラストは山田章博だった。

 その翌年、少女向けライトノベルレーベルの講談社X文庫ホワイトハートに移ってシリーズ本編が開幕、2001年までに7タイトルを出した。当初から絶大な人気を誇り、同人誌が山のように出て《十二国記》オンリーイベントが開かれるほどだったが、その評判が一般読者にも浸透し始めたのは(6)あたりから。その人気を受けて、00年からは挿絵なしバージョンが講談社文庫にも収録され始める。初の短編集(7)(「冬栄」「乗月」「書簡」「華胥」「帰山」)の刊行は、講談社文庫版が初めて先行した。

 02~03年にはNHKでTVアニメ化。(1)→(2)→「書簡」→(4)→「乗月」→(3)の順で、全45話が放送された(監督は小林常夫、脚本は40話までが會川昇、41話以降が藤間晴夜)。このアニメの影響もあり、《十二国記》人気はさらに拡大。日本を代表するファンタジーという地位を確立した。

 そして12年、《十二国記》は新潮文庫に復帰。それまで別枠だった『魔性の子』をEpisode0としてシリーズに組み込んだうえ、“完全版”と銘打ち、既刊の新装版を出し始める。(0)から(4)までを順に再刊したのち、13年には新たな短編集『丕緒の鳥』を(5)として刊行。その後、(6)、(7)、(8)と再刊し、(8)の直接の続編にあたる新作(9)につないだ。

 この10タイトル((1)と(4)が上下、(9)が4分冊なので、新潮文庫版は全15冊となる)をどういう順番で読むのがベストかという問題はなかなかむずかしい。発表順やEpisode番号順に必ずしもこだわる必要はないが、(8)と(9)はセットなので、(9)の前に、最低限(8)は読んでおいたほうがいい。

 この高里ルートの起点が(0)『魔性の子』。ただしこれは、前述の通り現代日本が舞台で、ホラー色が強く、他とは肌合いが違う。核になるのは、名門私立男子高校の2年生、高里要。幼いころ神隠しに遭って以来、彼のまわりでは不可解な事故が相次ぐ。教育実習生の広瀬は高里に興味を持つが、“祟り”はさらにエスカレートし……。一見、王道の青春ホラーだが、その背後に聞き慣れない言葉や謎めいた存在が見え隠れする。“ここは自分の本当の居場所じゃない”という思春期の思いにかたちを与え、最後はすさまじいカタストロフとカタルシスを同時に味わわせてくれる作品。

 その高里が神隠しに遭っていた(十二国にいた)幼少期を描くのが(2)。麒麟が王を選ぶとはどういうことか。“運命の人”は本当に“運命の人”なのか。まるで結婚に迷う恋愛小説の主人公のような幼い麒麟の心模様が瑞々しく描かれる。牧歌的な短編「冬栄」をはさんで、その後の戴(たい)国に訪れる災厄と、それを克服するための努力を描くのが(8)と(9)。シリーズ中でも、戴国をめぐるこの流れが主軸と言っていいだろう。

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